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数学記事・メモ

MacWilliams恒等式で学ぶシリーズ第2回 / 全12回

MacWilliams恒等式で学ぶ指標論入門

MacWilliams恒等式の五つの証明系統のうち,Fourier・指標・Poisson系に着目し,有限アーベル群の指標,指標群,直交関係,零化部分群を導入する.
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Tagscoding theoryMacWilliams identitycharacter theoryfinite abelian groupsfinite fieldsFourier analysisadditive charactersexpository note
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はじめに

符号理論における基本定理の一つに,MacWilliams恒等式があります. EE を座標集合とする有限体 Fq\mathbb{F}_{q} 上の線形符号 CFqEC \leq \mathbb{F}_{q}^{E} に対して,その双対符号

C={uFqE:uc=0 for all cC}C^{\perp} = \{ u \in \mathbb{F}_{q}^{E} : u \cdot c = 0 \text{ for all } c \in C \}

の重み多項式は,CC の重み多項式から次のように計算できます:

WC(X,Y)=1CWC(X+(q1)Y,XY).W_{C^{\perp}}(X,Y) = \frac{1}{\card{C}} W_{C}\bigl(X + (q - 1)Y, X - Y \bigr).

これがMacWilliams恒等式です.

この連載では,MacWilliams恒等式の証明を手掛かりに, 周辺分野・周辺概念への入門を試みます. そのため,本連載では以下のような読者を対象としています:

符号理論の初歩,具体的には

  • (有限)体とは何か

  • 有限体上の線形符号とは何か

  • Hamming重みとは何か

  • 双対符号とは何か

程度は既知であることを前提としています (MacWilliams恒等式の証明は知らなくても問題ありません).

この連載では,MacWilliams恒等式の証明手法を大きく次の五つの系統に分けて眺めます.

  1. Fourier・指標・Poisson系.

  2. Möbius反転・束論・短縮穿孔系.

  3. 直交多項式・アソシエーションスキーム系.

  4. マトロイド・Tutte多項式系.

  5. モーメント・二重数え上げ系.

今回の証明は,このうち「Fourier・指標・Poisson系」に着目します. ただし,本稿ではいきなりFourier変換やPoisson和公式という言葉を前面に出すのではなく, その最も基本的な構成要素である有限アーベル群の指標から始めます. つまり,第2回の目標は,MacWilliams恒等式の証明を案内役として, 有限アーベル群の指標論に入門することです.

前回は,台の包含関係とMöbius反転を使ってMacWilliams恒等式を証明しました. それに対して今回は,同じ恒等式を有限アーベル群の指標とその直交関係から証明します. 前回の主役が「台の包含関係」だったのに対し, 今回の主役は「群の双対性」と「指標の直交関係」です.

ここでいう指標論は,有限群の表現論全体を扱うものではありません. 本稿で必要になるのは,有限アーベル群 GG から複素数の乗法群 C×\mathbb{C}^{\times} への準同型

χ ⁣:GC×\chi \colon G \to \mathbb{C}^{\times}

です. これを GG の指標と呼びます. 有限アーベル群の指標は,群の元を複素数の 11 の冪根へ写し, 足し算を掛け算に変える関数です. そして,指標たちは非常に強い直交関係を満たします. この直交関係が,固定した同型を通して双対符号 CC^{\perp} に対応する条件を取り出してくれます.

今回の流れは次のようになります.

加法群として見る → 指標 → 指標群 → 直交関係 → 零化部分群 → 有限Poisson和公式 → MacWilliams恒等式

MacWilliams恒等式の証明だけを見るなら,必要な式はそれほど多くありません. 本質的には

cCψ(uc)={C,uC,0,uC\sum_{c \in C}\psi(u \cdot c) = \begin{cases} \card{C}, & u \in C^{\perp},\\ 0, & u \notin C^{\perp} \end{cases}

という一つの直交関係に集約されます. しかし,この式だけを孤立した計算として使ってしまうと, 指標論という分野の見通しが悪くなります. そこで本稿では,まず有限アーベル群の指標,指標群,零化部分群を導入し, その後でMacWilliams恒等式へ応用します.

有限群の指標と有限Fourier解析については, Terras [Ter99] や Stein–Shakarchi [SS03] が標準的な参考文献です. 有限体のトレース写像や加法指標については,Lidl–Niederreiter [LN97] を参照してください.

符号を加法群として見る

まず,符号理論の対象を少しだけ見方を変えて眺めます. FqE\mathbb{F}_{q}^{E} は有限体上のベクトル空間ですが, スカラー倍のことは忘れて1足し算だけに集中すれば,有限アーベル群でもあります.

定義2.1.

集合 GG に加法 ++ と零元 00 が与えられているとする. GGアーベル群 (abelian group) であるとは, 任意の x,y,zGx,y,z \in G に対して次が成り立つことをいう:

  1. (x+y)+z=x+(y+z)(x + y) + z = x + (y + z)

  2. x+0=0+x=xx + 0 = 0 + x = x

  3. xx に対して,ある元 xGx^{\prime} \in G が存在して,x+x=x+x=0x + x^{\prime} = x^{\prime} + x = 0

  4. x+y=y+xx + y = y + x

(G3) における xx^{\prime}xx の (加法) 逆元といいます. 各 xGx \in G に対して xx^{\prime} は一意に定まることが直ちにわかる2ので,これを xx-x \coloneqq x^{\prime} と書くのでした. 有限体 Fq\mathbb{F}_{q} は,足し算に関して有限アーベル群です. したがって,その直積である FqE\mathbb{F}_{q}^{E} も有限アーベル群です. 線形符号 CFqEC \leq \mathbb{F}_{q}^{E} は,ベクトル部分空間であると同時に,この加法群の部分群でもあります.

指標論的な証明では,この「加法群としての構造」を使います. つまり,ベクトル空間のスカラー倍よりも,まずは加法群としての FqE\mathbb{F}_{q}^{E} と その部分群 CC に注目します.

ただし,双対符号

C={uFqE:uc=0 for all cC}C^{\perp} = \{u \in \mathbb{F}_{q}^{E} : u \cdot c = 0 \text{ for all } c \in C \}

は内積を使って定義されています. 指標論的証明の面白い点は,この内積による直交補が, 「CC 上で自明になる指標たち」として自然に現れることです. そのために,まずは有限アーベル群の指標を導入します.

有限アーベル群の指標

本稿で扱う群はアーベル群なので,演算を加法で書きます. 一方,複素数の非零元全体

C×=C{0}\mathbb{C}^{\times} = \mathbb{C} \setminus \{ 0 \}

は掛け算で群になります.指標とは,加法を掛け算に移す写像です.

定義3.1.

GG を有限アーベル群とする. GG指標 (character) とは,群準同型

χ ⁣:GC×\chi \colon G \to \mathbb{C}^{\times}

のことである.つまり,任意の x,yGx, y \in G に対して

χ(x+y)=χ(x)χ(y)\chi(x + y) = \chi(x)\chi(y)

が成り立つ写像である.

群準同型は単位元を保つ3ので,常に χ(0)=1\chi(0) = 1 です.

定義3.2.

GG の指標 χ\chi自明 (trivial) であるとは, 任意の xGx \in G に対して

χ(x)=1\chi(x) = 1

となることをいう. 自明な指標を 1G1_{G} と書くことにする.

有限群の指標は,必ず 11 の冪根を値に取ります. 実際,xGx \in G の位数4mm とすると,mx=0mx = 0 です. したがって

χ(x)m=χ(x)χ(x)m 個=χ(x++xm 個)=χ(mx)=χ(0)=1\chi(x)^{m} = \underbrace{\chi(x) \dotsm \chi(x)}_{m \text{ 個}} = \chi(\underbrace{x + \dots + x}_{m \text{ 個}}) = \chi(mx) = \chi(0) = 1

です.つまり,指標は有限群の元を複素平面上の単位円の有限個の点へ写します.

例3.3(Z/NZ\mathbb{Z}/N\mathbb{Z} の指標).

巡回群 Z/NZ\mathbb{Z}/N\mathbb{Z} を加法群として考える. aZ/NZa \in \mathbb{Z}/N\mathbb{Z} に対して

χa(x)=exp(2π1axN)\chi_{a}(\overline{x}) = \exp\left(\frac{2\pi \sqrt{-1}\, ax}{N}\right)

と定めると,これは Z/NZ\mathbb{Z}/N\mathbb{Z} の指標である. ここで aaxx は剰余類の代表元として整数を取っている. 代表元の取り方を変えても値は変わらないので,この定義は well-defined である. 特に,NN 乗して 11 になる複素数は

exp(2π1aN)(a=0,1,,N1)\exp\left(\frac{2\pi \sqrt{-1}\, a}{N}\right) \qquad (a = 0,1,\dots,N-1)

の形にちょうど書ける.

実は,Z/NZ\mathbb{Z}/N\mathbb{Z} の指標はこれですべてである. なぜなら,指標 χ\chi は生成元 1ˉ\bar{1} の値で決まり, N1ˉ=0ˉN\bar{1} = \bar{0} だから

χ(1ˉ)N=χ(0ˉ)=1\chi(\bar{1})^{N} = \chi(\bar{0}) = 1

である.したがって χ(1ˉ)\chi(\bar 1)NN 乗して 11 になる複素数であり, その選び方は NN 通りである.

例えば N=4N = 4,つまり G=Z/4ZG = \mathbb{Z}/4\mathbb{Z} のとき,a=1a = 1 に対応する指標は

χ1(0)=1,χ1(1)=1,χ1(2)=1,χ1(3)=1\chi_{1}(\overline{0})=1, \quad \chi_{1}(\overline{1})=\sqrt{-1}, \quad \chi_{1}(\overline{2})=-1, \quad \chi_{1}(\overline{3})=-\sqrt{-1}

である.

例3.4(F2\mathbb{F}_{2} の加法指標).

F2={0,1}\mathbb{F}_{2} = \{ 0, 1 \} を加法群として見る. このとき

ψ(x)=(1)x\psi(x) = (-1)^x

で定まる ψ ⁣:F2C×\psi \colon \mathbb{F}_{2} \to \mathbb{C}^{\times}F2\mathbb{F}_{2} の指標である. 実際,ψ(0)=1\psi(0) = 1, ψ(1)=1\psi(1) = -1 であり, F2\mathbb{F}_{2} の加法に対して

ψ(x+y)=ψ(x)ψ(y)\psi(x + y) = \psi(x)\psi(y)

が成り立つ.

定義3.5.

有限体 Fq\mathbb{F}_{q} の加法群の指標を, Fq\mathbb{F}_{q}加法指標 (additive character) と呼ぶ.

q=pmq = p^{m} とします.ここで pp は素数です.有限体のトレース写像

TrFq/Fp(a)=a+ap+ap2++apm1\Tr_{\mathbb{F}_{q}/\mathbb{F}_{p}}(a) = a + a^{p} + a^{p^{2}} + \dots + a^{p^{m-1}}

を使うと,加法指標を具体的に書けます. 例えば

ψ(a)=exp(2π1pTrFq/Fp(a))\psi(a) = \exp\left( \frac{2 \pi \sqrt{-1}}{p} \Tr_{\mathbb{F}_{q}/\mathbb{F}_{p}}(a) \right)

で加法指標 ψ\psi を定めます. ここで TrFq/Fp(a)\Tr_{\mathbb{F}_{q}/\mathbb{F}_{p}}(a)Fp\mathbb{F}_{p} の元なので, 指数関数に入れるときは FpZ/pZ\mathbb{F}_{p} \cong \mathbb{Z}/p\mathbb{Z} と同一視し, 代表元 0,1,,p10,1,\dots,p-1 を用いています. この値は pp を法とした剰余類だけに依存するので,代表元の取り方には依存しません. この ψ\psi が加法指標になるのは,トレース写像が加法的だからです. 実際,

ψ(a+b)=exp(2π1pTrFq/Fp(a+b))=ψ(a)ψ(b)\psi(a + b) = \exp\left( \frac{2 \pi \sqrt{-1}}{p} \Tr_{\mathbb{F}_{q}/\mathbb{F}_{p}}(a+b) \right) = \psi(a)\psi(b)

が成り立ちます. また,有限体の拡大は分離的なので,TrFq/Fp\Tr_{\mathbb{F}_{q}/\mathbb{F}_{p}} は零写像ではありません. 本稿ではこの事実を有限体論の基本事実として用います. また,TrFq/Fp\Tr_{\mathbb{F}_{q}/\mathbb{F}_{p}} は非零な Fp\mathbb{F}_{p} 線形写像なので, その像は Fp\mathbb{F}_{p} 全体です.したがって

TrFq/Fp(a)=1\Tr_{\mathbb{F}_{q}/\mathbb{F}_{p}}(a)=1

となる aFqa \in \mathbb{F}_{q} が存在し,そのような aa に対して

ψ(a)=exp(2π1p)1\psi(a)=\exp\left(\frac{2 \pi \sqrt{-1}}{p}\right)\neq 1

ですから,ψ\psi は自明ではありません.

より一般に,tFqt \in \mathbb{F}_{q} に対して

ψt(a)=ψ(ta)\psi_{t}(a) = \psi(ta)

と定めると,ψt\psi_{t} も加法指標です. t=0t = 0 のとき ψt\psi_{t} は自明な指標です. また,t0t \neq 0 のときは ataa \mapsto taFq\mathbb{F}_{q} の全単射なので, もし ψt\psi_{t} が自明なら ψ\psi も自明になってしまいます. したがって,t0t \neq 0 のとき ψt\psi_{t} は非自明な指標です.

なお,q=pmq = p^{m}m>1m > 1 のとき,TrFq/Fp\Tr_{\mathbb{F}_{q}/\mathbb{F}_{p}}Fp\mathbb{F}_{p}mm 次元の空間 Fq\mathbb{F}_{q} から 11 次元の空間 Fp\mathbb{F}_{p} への非零線形写像なので, その核は非自明です. したがって,トレースから作る加法指標では,非零の xFqx \in \mathbb{F}_{q} に対しても

ψ(x)=1\psi(x) = 1

となることがあります. したがって一般には

ψ(x)=1    x=0\psi(x) = 1 \implies x = 0

は成り立ちません.この点は,後で CC^{\circ}CC^{\perp} を比べるときに重要になります.

補題3.6.

ψ\psiFq\mathbb{F}_{q} の非自明な加法指標とする. このとき,Fq\mathbb{F}_{q} の任意の加法指標 η\eta は, ただ一つの tFqt \in \mathbb{F}_{q} によって

η(a)=ψ(ta)(aFq)\eta(a)=\psi(ta) \qquad (a\in \mathbb{F}_{q})

と書ける.

証明

すでに見たように,各 tFqt \in \mathbb{F}_{q} に対して

ψt(a)=ψ(ta)\psi_{t}(a)=\psi(ta)

は加法指標である.

次に,ttt \neq t^{\prime} なら ψtψt\psi_{t} \neq \psi_{t^{\prime}} であることを示す. 実際,

ψt(a)ψt(a)1=ψ((tt)a)\psi_{t}(a)\psi_{t^{\prime}}(a)^{-1} = \psi((t-t^{\prime})a)

であり,tt0t-t^{\prime} \neq 0 なので a(tt)aa \mapsto (t-t^{\prime})aFq\mathbb{F}_{q} の全単射である. したがって右辺は非自明な加法指標であり,ψt\psi_{t}ψt\psi_{t^{\prime}} は一致しない. よって,少なくとも qq 個の相異なる加法指標がある.

逆に,加法指標の個数は高々 qq 個であることを示す. q=pmq=p^{m} とし,α1,,αm\alpha_{1},\dots,\alpha_{m}Fq\mathbb{F}_{q}Fp\mathbb{F}_{p}-基底とする. 任意の加法指標 η\eta と任意の aFqa \in \mathbb{F}_{q} に対して, 加法群では pa=0pa=0 なので

η(a)p=η(pa)=η(0)=1\eta(a)^{p} = \eta(pa) = \eta(0) = 1

である. したがって,各 η(a)\eta(a) は複素数の pp 乗して 11 になる元である.

また,任意の aFqa \in \mathbb{F}_{q} は一意的に

a=b1α1++bmαm(b1,,bmFp)a=b_{1}\alpha_{1}+\cdots+b_{m}\alpha_{m} \qquad (b_{1},\dots,b_{m}\in\mathbb{F}_{p})

と書けるから, ここで bib_{i} を指数として書くときは, Fp\mathbb{F}_{p} の元を 0,1,,p10,1,\dots,p-1 の代表元で表しているものとする.

η(a)=η(α1)b1η(αm)bm\eta(a) = \eta(\alpha_{1})^{b_{1}} \cdots \eta(\alpha_{m})^{b_{m}}

である. すなわち,η\eta は基底 α1,,αm\alpha_{1},\dots,\alpha_{m} 上の値で決まる. 各 η(αi)\eta(\alpha_{i}) の選択肢は高々 pp 個なので,加法指標全体の個数は高々 pm=qp^{m}=q 個である.

以上より,加法指標はちょうど qq 個であり,

{ψt:tFq}\{ \psi_{t} : t \in \mathbb{F}_{q} \}

がその全体である. 一意性は,すでに示した ψtψt\psi_{t} \neq \psi_{t^{\prime}} から従う.

証明終わり

以後,本稿では Fq\mathbb{F}_{q} の非自明な加法指標を一つ固定し,それを ψ\psi と書きます. MacWilliams恒等式の指標論的証明では,どの非自明な加法指標を選んでも同じ結果が得られます.

指標群

指標全体は,それ自身が群になります.

定義4.1.

有限アーベル群 GG の指標全体の集合を

G^Hom(G,C×)\widehat{G} \coloneqq \Hom(G,\mathbb{C}^{\times})

と書く.これを GG指標群 (character group) という.

G^\widehat{G} には,指標の点ごとの積で群構造が入ります. つまり,χ,ηG^\chi, \eta \in \widehat{G} に対して

(χη)(x)=χ(x)η(x)(xG)(\chi\eta)(x) = \chi(x)\eta(x) \qquad (x\in G)

と定めます. 単位元は自明な指標 1G1_{G} であり,χ\chi の逆元 χ1\chi^{-1}

χ1(x)=χ(x)1\chi^{-1}(x) = \chi(x)^{-1}

で与えられます.

定理4.2.

有限アーベル群 GG に対して

G^=G\card{\widehat{G}} = \card{G}

が成り立つ.

証明

ここでは,有限アーベル群の基本定理をブラックボックスとして用いる. 有限アーベル群の基本定理より,GG は有限個の巡回群の直積

Z/N1Z×Z/N2Z××Z/NrZ\mathbb{Z}/N_{1}\mathbb{Z} \times \mathbb{Z}/N_{2}\mathbb{Z} \times \cdots \times \mathbb{Z}/N_{r}\mathbb{Z}

と同型である. 例 3.3 で見たように,Z/NZ\mathbb{Z}/N\mathbb{Z} の指標は NN 個ある. また,直積群の指標は各成分の指標の積として得られる. 実際,χG1×G2^\chi \in \widehat{G_{1} \times G_{2}} に対して

χ1(x1)=χ(x1,0),χ2(x2)=χ(0,x2)\chi_{1}(x_{1}) = \chi(x_{1}, 0),\qquad \chi_{2}(x_{2}) = \chi(0, x_{2})

とおけば,

χ(x1,x2)=χ((x1,0)+(0,x2))=χ1(x1)χ2(x2)\chi(x_{1}, x_{2}) = \chi((x_{1}, 0) + (0, x_{2})) = \chi_{1}(x_{1}) \chi_{2}(x_{2})

である. 逆に,χ1G1^\chi_{1} \in \widehat{G_{1}}χ2G2^\chi_{2} \in \widehat{G_{2}} が与えられたとき,

χ(x1,x2)χ1(x1)χ2(x2)\chi(x_{1}, x_{2}) \coloneqq \chi_{1}(x_{1})\chi_{2}(x_{2})

と定めれば,

χ((x1,x2)+(y1,y2))=χ(x1,x2)χ(y1,y2)\chi((x_{1},x_{2})+(y_{1},y_{2})) = \chi(x_{1},x_{2})\chi(y_{1},y_{2})

が成り立つので,これは G1×G2G_{1}\times G_{2} の指標である. したがって,直積群の指標は各成分の指標の組と一対一に対応する. したがって,直積を取ると指標の個数も積になる. よって G^=G\card{\widehat{G}} = \card{G} が従う.

証明終わり

この定理は,「有限アーベル群は,自分自身と同じ個数の指標を持つ」ということを意味します. ただし,自然に GG^G \cong \widehat{G} と同一視できるとは限りません. 同一視を作るには,追加の選択が必要です. なお,有限アーベル群では GGG^^\widehat{\widehat{G}} の間には自然な対応がありますが, GGG^\widehat{G} の対応には一般に選択が入ります. 本稿では,非自明加法指標 ψ\psi と標準内積を選ぶことで, 後に FqE\mathbb{F}_{q}^{E} とその指標群を具体的に結びます. 符号理論では,標準内積と非自明な加法指標を選ぶことで,具体的な同一視を作ります.

なお,定理 4.2 は一般の有限アーベル群についての背景定理であり, その証明では有限アーベル群の基本定理を黒箱として用いました. しかし,本稿で実際に必要になる G=FqEG=\mathbb{F}_{q}^{E} の場合には, この一般定理を使わず,有限体の加法指標の具体的な記述から直接証明できます. 次節では,そちらの直接証明を主ルートとして用います.

FqE\mathbb{F}_{q}^{E} の指標

以後,座標集合 EE は有限集合とし,n=En = \card{E} とします. ここでは,Fq\mathbb{F}_{q} の非自明な加法指標 ψ\psi と標準内積

uv=iEuiviu \cdot v = \sum_{i \in E} u_{i} v_{i}

を固定します.

uFqEu \in \mathbb{F}_{q}^{E} に対して,写像

χu ⁣:FqEC×\chi_{u} \colon \mathbb{F}_{q}^{E} \to \mathbb{C}^{\times}

χu(v)ψ(uv)=ψ(iEuivi)\chi_{u}(v) \coloneqq \psi(u \cdot v) = \psi\left(\sum_{i \in E} u_{i} v_{i} \right)

で定めます. これは FqE\mathbb{F}_{q}^{E} の加法群の指標です. 実際,v,wFqEv,w \in \mathbb{F}_{q}^{E} に対して

χu(v+w)=ψ(u(v+w))=ψ(uv+uw)=ψ(uv)ψ(uw)=χu(v)χu(w)\begin{aligned} \chi_{u}(v + w) &= \psi\bigl(u\cdot(v + w)\bigr)\\ &= \psi(u \cdot v + u \cdot w)\\ &= \psi(u \cdot v)\psi(u \cdot w)\\ &= \chi_{u}(v)\chi_{u}(w) \end{aligned}

です.

定理5.1.

写像

Φ ⁣:FqEFqE^,uχu\Phi \colon \mathbb{F}_{q}^{E} \to \widehat{\mathbb{F}_{q}^{E}}, \qquad u \mapsto \chi_u

は群同型である.

証明
Φ\Phi が群準同型であること

u,uFqEu, u^{\prime} \in \mathbb{F}_{q}^{E} に対して

χu+u(v)=ψ((u+u)v)=ψ(uv)ψ(uv)=χu(v)χu(v)\begin{aligned} \chi_{u + u^{\prime}}(v) &= \psi\bigl((u + u^{\prime}) \cdot v \bigr)\\ &= \psi(u \cdot v)\psi(u^{\prime} \cdot v)\\ &= \chi_{u}(v)\chi_{u^{\prime}}(v) \end{aligned}

であるから,Φ\Phi は群準同型である.

Φ\Phi が全射であること

任意の指標 χ ⁣:FqEC×\chi \colon \mathbb{F}_{q}^{E} \to \mathbb{C}^{\times} を取る. 各 iEi \in E に対して,ii 成分が 11 で他の成分が 00 であるベクトルを eie_{i} とし,

χi(a)χ(aei)(aFq)\chi_{i}(a)\coloneqq\chi(ae_{i}) \qquad (a \in \mathbb{F}_{q})

と定める. このとき χi\chi_{i}Fq\mathbb{F}_{q} の加法指標である. 実際,

χi(a+b)=χ((a+b)ei)=χ(aei+bei)=χi(a)χi(b)\chi_{i}(a+b) = \chi((a+b)e_{i}) = \chi(ae_{i}+be_{i}) = \chi_{i}(a)\chi_{i}(b)

である.

補題 3.6 より,各 iEi \in E に対してただ一つの uiFqu_{i} \in \mathbb{F}_{q} が存在して

χi(a)=ψ(uia)(aFq)\chi_{i}(a)=\psi(u_{i}a) \qquad (a \in \mathbb{F}_{q})

と書ける. u=(ui)iEu=(u_{i})_{i \in E} とおく.

任意の v=(vi)iEFqEv=(v_{i})_{i \in E} \in \mathbb{F}_{q}^{E} に対して

v=iEvieiv=\sum_{i \in E} v_{i}e_{i}

であるから,

χ(v)=iEχ(viei)=iEχi(vi)=iEψ(uivi)=ψ(iEuivi)=χu(v)\begin{aligned} \chi(v) &= \prod_{i \in E}\chi(v_{i}e_{i})\\ &= \prod_{i \in E}\chi_{i}(v_{i})\\ &= \prod_{i \in E}\psi(u_{i}v_{i})\\ &= \psi\left(\sum_{i \in E}u_{i}v_{i}\right)\\ &= \chi_{u}(v) \end{aligned}

となる.したがって,χ=χu\chi=\chi_{u} であり,Φ\Phi は全射である.

Φ\Phi が単射であること

χu=χu\chi_{u}=\chi_{u^{\prime}} とする. 任意の iEi \in E と任意の aFqa \in \mathbb{F}_{q} に対して

ψ(uia)=χu(aei)=χu(aei)=ψ(uia)\psi(u_{i}a) = \chi_{u}(ae_{i}) = \chi_{u^{\prime}}(ae_{i}) = \psi(u^{\prime}_{i}a)

である. 補題 3.6 の一意性より ui=uiu_{i}=u^{\prime}_{i} が従う. これはすべての iEi \in E について成り立つので,u=uu=u^{\prime} である. よって Φ\Phi は単射である.

よって Φ\Phi は全単射な群準同型であるため,群同型である.

証明終わり

一般の有限アーベル群の個数定理を使う別証明もあります. まず上と同様に Φ\Phi が群準同型であることを示し, さらに χu\chi_{u} が自明指標なら u=0u=0 であることを従来通り確かめます. 実際,u0u \neq 0 なら,ある iEi \in E に対して ui0u_{i} \neq 0 です. ψ\psi は非自明なので,ある aFqa \in \mathbb{F}_{q} が存在して ψ(a)1\psi(a) \neq 1 です. vFqEv \in \mathbb{F}_{q}^{E}

vi=a/ui,vj=0(ji)v_{i}=a/u_{i}, \qquad v_{j}=0 \quad (j \neq i)

で定めると,uv=au \cdot v = a なので

χu(v)=ψ(a)1\chi_{u}(v)=\psi(a)\neq 1

となり,χu\chi_{u} は自明ではありません. したがって Φ\Phi は単射です. さらに FqE=qn\card{\mathbb{F}_{q}^{E}}=q^{n} であり, 定理 4.2 により

FqE^=qn\card{\widehat{\mathbb{F}_{q}^{E}}}=q^{n}

ですから,有限集合の間の単射 Φ\Phi は全射でもあります. この別証明は一般の有限アーベル群についての個数定理を使っていますが, 上の主証明はそれを使っていません.

この同型は,固定した非自明な加法指標 ψ\psi と標準内積の選択に依存しています. その選択のもとで,FqE\mathbb{F}_{q}^{E} の元 uu を, 指標 vψ(uv)v \mapsto \psi(u \cdot v) と同一視できるようになります. 実は,MacWilliams恒等式の証明そのものに必要なのは, 各 uFqEu \in \mathbb{F}_{q}^{E} から指標 χu(v)=ψ(uv)\chi_{u}(v)=\psi(u \cdot v) が得られることと, その指標が CC 上で自明であることと uCu \in C^{\perp} が同値であることだけです. 本稿では指標論入門として,さらに FqE\mathbb{F}_{q}^{E} の指標がすべてこの形で書けることも説明します.

指標の直交関係

指標論の最も基本的な事実は,非自明な指標の和は消える,というものです.

定理6.1.

GG を有限アーベル群とし,χG^\chi \in \widehat{G} とする. このとき

xGχ(x)={G,χ=1G,0,χ1G\sum_{x \in G}\chi(x) = \begin{cases} \card{G}, & \chi = 1_{G},\\ 0, & \chi \neq 1_{G} \end{cases}

が成り立つ.

証明

χ=1G\chi = 1_{G} なら,すべての xGx \in G に対して χ(x)=1\chi(x) = 1 なので, 和は G\card{G} である.

次に χ1G\chi \neq 1_{G} とする. このとき,ある aGa \in G が存在して χ(a)1\chi(a) \neq 1 である.

SxGχ(x)S \coloneqq \sum_{x \in G} \chi(x)

とおく. xxGG 全体を動くとき,x+ax + aGG 全体を一度ずつ動くので,

S=xGχ(x+a)=xGχ(x)χ(a)=χ(a)S.\begin{aligned} S &= \sum_{x \in G}\chi(x + a)\\ &= \sum_{x \in G}\chi(x)\chi(a)\\ &= \chi(a)S. \end{aligned}

よって (1χ(a))S=0(1 - \chi(a))S = 0 である. いま χ(a)1\chi(a) \neq 1 なので,S=0S = 0 となる.

証明終わり

この定理は,群全体に対する直交関係です. MacWilliams恒等式では,符号 CC という部分群上で和を取ります. その場合も同じ議論が使えます.

系6.2(部分群上の直交関係).

GG を有限アーベル群,HGH \leq G を部分群とする. χG^\chi \in \widehat{G} に対して

hHχ(h)={H,χ(h)=1 for all hH,0,otherwise\sum_{h \in H}\chi(h) = \begin{cases} \card{H}, & \chi(h) = 1 \text{ for all } h \in H,\\ 0, & \text{otherwise} \end{cases}

が成り立つ.

証明

この直交関係の意味を,少し言葉で整理しておきます. 指標 χ\chiHH 上で常に 11 なら,和は単に 11H\card{H} 個足すだけなので H\card{H} です. 一方,HH 上で少しでも振動するなら,値が複素平面上で打ち消し合い,和は 00 になります.

零化部分群:部分群上で自明になる指標

部分群上で自明になる指標たちには名前を付けます.

HH^{\circ}G^\widehat{G} の部分群です. 実際,自明指標 1G1_{G} は任意の hHh \in H に対して 1G(h)=11_{G}(h)=1 なので HH^{\circ} に属します. また,χ,ηH\chi,\eta \in H^{\circ} なら任意の hHh \in H に対して

(χη)(h)=χ(h)η(h)=1(\chi\eta)(h)=\chi(h)\eta(h)=1

であり,また

χ1(h)=χ(h)1=1\chi^{-1}(h)=\chi(h)^{-1}=1

ですから,部分群の条件を満たします. 系 6.2 は,零化部分群を使うと次のように書けます.

hHχ(h)={H,χH,0,χH.\sum_{h \in H}\chi(h) = \begin{cases} \card{H}, & \chi \in H^{\circ},\\ 0, & \chi \notin H^{\circ}. \end{cases}

この式を G=FqEG=\mathbb{F}_{q}^{E}H=CH=C に適用します. ここで,現れる対象の所在を整理しておきます.

CC^{\perp}

FqE\mathbb{F}_{q}^{E} の部分空間であり,内積で CC と直交するベクトル全体です.

FqE^\widehat{\mathbb{F}_{q}^{E}}

FqE\mathbb{F}_{q}^{E} の加法群の指標全体です.

CC^{\circ}

FqE^\widehat{\mathbb{F}_{q}^{E}} の部分群であり,CC 上で自明になる指標全体です.

uχuu \mapsto \chi_{u}

固定した ψ\psi と標準内積に依存する同型であり, FqE\mathbb{F}_{q}^{E}FqE^\widehat{\mathbb{F}_{q}^{E}} を結びます.

したがって,厳密には CC^{\perp}CC^{\circ} は別々の場所にあります. 前者は FqE\mathbb{F}_{q}^{E} の部分空間であり,後者は FqE^\widehat{\mathbb{F}_{q}^{E}} の部分群です. 以下で言う「対応」は,固定した同型 uχuu \mapsto \chi_{u} を通した対応を意味します.

FqE\mathbb{F}_{q}^{E} とその指標群を 定理 5.1 の同型

uχu,χu(v)=ψ(uv)u \longmapsto \chi_{u}, \quad \chi_{u}(v) = \psi(u \cdot v)

で結びます. この同型を通して見ると,CC の零化部分群は CC^{\perp} に対応します.

先に注意したように,一般に非自明な加法指標 ψ\psi についても

ψ(x)=1    x=0\psi(x)=1 \implies x=0

は成り立ちません.特に q=pmq=p^{m}m>1m>1 のとき, トレースから作る標準的な加法指標は核を持ちます. したがって χu(c)=ψ(uc)=1\chi_{u}(c)=\psi(u\cdot c)=1 から直ちに uc=0u\cdot c=0 とは言えず, 後の証明では CCFq\mathbb{F}_{q}-線形性を使います.

ここで次の補助事実を使います. ψ\psiFq\mathbb{F}_{q} の非自明な加法指標とするとき,dFqd \in \mathbb{F}_{q}d0d \neq 0 なら

aψ(ad)a \longmapsto \psi(ad)

も非自明な加法指標です. 実際,aada \mapsto adFq\mathbb{F}_{q} の全単射であり, もし ψ(ad)=1\psi(ad)=1 がすべての aa で成り立つなら,ψ\psiFq\mathbb{F}_{q} 全体で 11 になってしまいます.

定理7.2.

上の同型のもとで,CC^{\circ}CC^{\perp} に対応する. すなわち,uFqEu \in \mathbb{F}_{q}^{E} に対して

χuC    uC\chi_{u} \in C^{\circ} \iff u \in C^{\perp}

が成り立つ.

証明
(    \impliedby)

uCu \in C^{\perp} とする. このとき任意の cCc \in C に対して uc=0u \cdot c = 0 であるから,

χu(c)=ψ(uc)=ψ(0)=1.\chi_{u}(c) = \psi(u \cdot c) = \psi(0) = 1.

よって χuC\chi_{u} \in C^{\circ} である.

(    \implies)

χuC\chi_{u}\in C^\circ とする. uCu\notin C^\perp と仮定し,矛盾を導く. このとき,ある c0Cc_{0} \in C が存在して uc00u \cdot c_{0} \neq 0 である. d=uc0d = u \cdot c_{0} とおくと d0d \neq 0 であり, aψ(ad)a \mapsto \psi(ad)Fq\mathbb{F}_{q} の非自明な加法指標である. したがって,ある aFqa \in \mathbb{F}_{q} に対して

ψ(ad)1\psi(ad)\neq 1

となる. しかし CC は線形符号なので ac0Cac_{0} \in C であり,

χu(ac0)=ψ(uac0)=ψ(a(uc0))=ψ(ad)1.\chi_{u}(ac_{0}) = \psi(u \cdot ac_{0}) = \psi(a(u \cdot c_{0})) = \psi(ad) \neq 1.

これは χu\chi_{u}CC 上で自明であることに反する. よって uCu \in C^{\perp} である.

以上により,χuC\chi_{u} \in C^{\circ}uCu \in C^{\perp} は同値である.

証明終わり

この定理によって,固定した同型 uχuu \mapsto \chi_{u} を通して見ると, uCu \in C^{\perp} であることは,対応する指標 χu\chi_{u}CC 上で自明であることと同値になります. この見方が,指標論的証明の中心です.

系7.3.

任意の uFqEu \in \mathbb{F}_{q}^{E} に対して

1CcCψ(uc)={1,uC,0,uC\frac{1}{\card{C}}\sum_{c \in C}\psi(u\cdot c) = \begin{cases} 1, & u \in C^{\perp},\\ 0, & u \notin C^{\perp} \end{cases}

が成り立つ.

証明

この式は非常に重要です. 左辺は CC 上の指標和です. 右辺は,uuCC^{\perp} に入っているかどうかを表す指示関数です. つまり,

1C(u)=1CcCψ(uc)\mathbf{1}_{C^{\perp}}(u) = \frac{1}{\card{C}}\sum_{c \in C}\psi(u \cdot c)

です. 指標論的証明では,この式を使って CC^{\perp} 上の和を CC 上の和に変換します.

有限Poisson和公式としての指標和

ここで,MacWilliams恒等式に入る前に,もう少し一般の形で公式を書いておきます. V=FqEV = \mathbb{F}_{q}^{E} とし,f ⁣:VCf \colon V \to \mathbb{C} を任意の関数とします.

定義8.1.

f ⁣:FqECf \colon \mathbb{F}_{q}^{E} \to \mathbb{C} に対して, その指標和変換 f^ ⁣:FqEC\widehat{f} \colon \mathbb{F}_{q}^{E} \to \mathbb{C}

f^(c)uFqEf(u)ψ(cu)\widehat{f}(c) \coloneqq \sum_{u \in \mathbb{F}_{q}^{E}} f(u)\psi(c\cdot u)

で定める.

ここでは係数 1/FqE1/\card{\mathbb{F}_{q}^{E}} を付けない形を採用します. 文献によっては正規化の置き方や符号の付け方が異なりますが, 本稿では後のMacWilliams恒等式に合わせてこの形を使います. また,本稿ではFourier反転公式そのものは使わず, CC^{\perp} 上の和を CC 上の和へ移すためにこの変換を使います.

この変換は通常,有限アーベル群上のFourier変換と呼ばれます. ただし本稿では,指標論入門という観点を保つため, 「指標で重みを付けて和を取る操作」として扱います.

有限Poisson和公式とは,CC^{\perp} 上で直接和を取る代わりに, CC 上の指標和へ変換する公式です. 名前は少し大きく聞こえますが,本稿で使う範囲では,高度な解析定理ではありません. 実際には,1C\mathbf{1}_{C^{\perp}} を指標和で表し,有限和の順序を入れ替えるだけです. 名前に Poisson と付いていますが,ここでは積分や極限は現れず, すべて有限集合上の和だけを扱います.

定理8.2(有限Poisson和公式).

任意の関数 f ⁣:FqECf \colon \mathbb{F}_{q}^{E} \to \mathbb{C} に対して

uCf(u)=1CcCf^(c)\sum_{u \in C^{\perp}} f(u) = \frac{1}{\card{C}} \sum_{c \in C}\widehat{f}(c)

が成り立つ.

証明

系 7.3 より

1C(u)=1CcCψ(uc)\mathbf{1}_{C^{\perp}}(u) = \frac{1}{\card{C}}\sum_{c \in C}\psi(u\cdot c)

である.したがって

uCf(u)=uFqEf(u)1C(u)=uFqEf(u)1CcCψ(uc)=1CcCuFqEf(u)ψ(cu)=1CcCf^(c).\begin{aligned} \sum_{u \in C^{\perp}} f(u) &= \sum_{u \in \mathbb{F}_{q}^{E}} f(u)\mathbf{1}_{C^{\perp}}(u)\\ &= \sum_{u \in \mathbb{F}_{q}^{E}} f(u) \frac{1}{\card{C}}\sum_{c \in C}\psi(u\cdot c)\\ &= \frac{1}{\card{C}} \sum_{c \in C} \sum_{u \in \mathbb{F}_{q}^{E}} f(u)\psi(c\cdot u)\\ &= \frac{1}{\card{C}} \sum_{c \in C}\widehat{f}(c). \end{aligned}

ここで,uc=cuu \cdot c = c\cdot u を用いた.

証明終わり

係数の正規化を確認するために,f1f \equiv 1 の場合を見ておきます. このとき左辺は C\card{C^{\perp}} です. 一方,右辺で

f^(0)=uFqE1=qn\widehat{f}(0)=\sum_{u \in \mathbb{F}_{q}^{E}}1=q^{n}

であり,c0c \neq 0 なら uψ(cu)u \mapsto \psi(c\cdot u)定理 5.1 により非自明な指標なので,

f^(c)=uFqEψ(cu)=0\widehat{f}(c)=\sum_{u \in \mathbb{F}_{q}^{E}}\psi(c\cdot u)=0

定理 6.1 より成り立ちます. したがって右辺は

qnC\frac{q^{n}}{\card{C}}

です. これは,通常の双対符号についての次元公式

dimC+dimC=n\dim C+\dim C^{\perp}=n

から従う

C=qnC\card{C^{\perp}}=\frac{q^{n}}{\card{C}}

と一致します. これは有限Poisson和公式の証明に使った事実ではなく, 係数 1/C1/\card{C} の正規化が整合していることの確認です.

この定理が,MacWilliams恒等式のほとんどすべてです. 上では ff を複素数値関数として述べました. 以下で扱う FX,YF_{X,Y}C[X,Y]\mathbb{C}\lbrack X, Y \rbrack 値ですが, 各係数に対して複素数値関数の場合を適用すればよいので, 同じ証明をそのまま使えます. 以下では,重み多項式を扱うために,多項式値関数にもこの公式を適用します. 残る作業は,重み多項式に対応する関数 ff を取り, その指標和変換 f^\widehat{f} を計算することだけです.

一座標の指標和

MacWilliams恒等式に使う関数は,各座標に分解できます. このため,まず一座標の計算をします.

XX, YY を不定元とし,関数

φX,Y ⁣:FqC[X,Y]\varphi_{X,Y}\colon \mathbb{F}_{q}\to \mathbb{C}\lbrack X,Y \rbrack

φX,Y(a)={X,a=0,Y,a0\varphi_{X,Y}(a) = \begin{cases} X, & a=0,\\ Y, & a\neq 0 \end{cases}

で定めます.この関数は,一つの座標が 00 なら XX,非零なら YY を返す関数です.

まず F2\mathbb{F}_{2} の場合を見ておきます. 非自明加法指標を ψ(a)=(1)a\psi(a)=(-1)^{a} とすると,b=0b=0 のとき

aF2φX,Y(a)ψ(0a)=X+Y\sum_{a\in\mathbb{F}_{2}}\varphi_{X,Y}(a)\psi(0\cdot a) = X+Y

であり,b=1b=1 のとき

aF2φX,Y(a)ψ(a)=XY\sum_{a\in\mathbb{F}_{2}}\varphi_{X,Y}(a)\psi(a) = X-Y

です. これが,一般の場合の X+(q1)YX+(q-1)YXYX-Y の原型になっています.

定理9.1.

bFqb \in \mathbb{F}_{q} に対して

aFqφX,Y(a)ψ(ba)={X+(q1)Y,b=0,XY,b0\sum_{a \in \mathbb{F}_{q}} \varphi_{X, Y}(a) \psi(ba) = \begin{cases} X + (q - 1)Y, & b = 0,\\ X - Y, & b\neq 0 \end{cases}

が成り立つ.

証明

まず b=0b = 0 とする.このとき ψ(ba)=ψ(0)=1\psi(ba) = \psi(0) = 1 なので,

aFqφX,Y(a)ψ(ba)=aFqφX,Y(a)=X+(q1)Y\sum_{a \in \mathbb{F}_{q}}\varphi_{X,Y}(a)\psi(ba) = \sum_{a \in \mathbb{F}_{q}}\varphi_{X,Y}(a) = X + (q - 1)Y

である.

次に b0b \neq 0 とする.このとき,abaa \mapsto baFq\mathbb{F}_{q} の置換であり, Fq×\mathbb{F}_{q}^{\times} の置換でもある.よって

aFqφX,Y(a)ψ(ba)=X+YaFq×ψ(ba)=X+YtFq×ψ(t).\begin{aligned} \sum_{a \in \mathbb{F}_{q}}\varphi_{X, Y}(a) \psi(ba) &= X + Y\sum_{a \in \mathbb{F}_{q}^{\times}}\psi(ba)\\ &= X + Y\sum_{t \in \mathbb{F}_{q}^{\times}}\psi(t). \end{aligned}

ここで ψ\psi は非自明な指標なので,定理 6.1 より

tFqψ(t)=0\sum_{t \in \mathbb{F}_{q}}\psi(t) = 0

である.したがって

tFq×ψ(t)=ψ(0)=1\sum_{t \in \mathbb{F}_{q}^{\times}}\psi(t) = -\psi(0) = -1

である.よって

aFqφX,Y(a)ψ(ba)=XY\sum_{a \in \mathbb{F}_{q}}\varphi_{X,Y}(a)\psi(ba) = X - Y

となる.

証明終わり

この一座標の計算から,変数変換

XX+(q1)Y,YXYX \longmapsto X + (q - 1)Y, \qquad Y \longmapsto X - Y

が現れます. 00 座標では X+(q1)YX + (q - 1)Y が現れ,非零座標では XYX - Y が現れる,というわけです.

重み関数の指標和変換

V=FqEV = \mathbb{F}_{q}^{E} とします. 重み多項式は,次の関数を使って書けます:

FX,Y(u)Xnwt(u)Ywt(u)(uV).F_{X,Y}(u) \coloneqq X^{n - \wt(u)} Y^{\wt(u)} \qquad (u \in V).

すると,任意の符号 DVD \leq V に対して

WD(X,Y)=uDFX,Y(u)W_{D}(X,Y) = \sum_{u \in D} F_{X,Y}(u)

です.

また,FX,YF_{X,Y} は座標ごとの積として

FX,Y(u)=iEφX,Y(ui)F_{X,Y}(u) = \prod_{i \in E} \varphi_{X,Y}(u_{i})

と書けます.この分解が,指標和変換の計算を一座標の計算へ落としてくれます.

定理10.1.

cFqEc \in \mathbb{F}_{q}^{E} に対して

FX,Y^(c)=(X+(q1)Y)nwt(c)(XY)wt(c)\widehat{F_{X,Y}}(c) = \bigl(X + (q - 1)Y \bigr)^{n - \wt(c)}(X - Y)^{\wt(c)}

が成り立つ.

証明

定義より

FX,Y^(c)=uFqEFX,Y(u)ψ(cu)=uFqEiEφX,Y(ui)ψ(iEciui).\begin{aligned} \widehat{F_{X, Y}}(c) &= \sum_{u \in \mathbb{F}_{q}^{E}}F_{X,Y}(u)\psi(c\cdot u)\\ &= \sum_{u \in \mathbb{F}_{q}^{E}} \prod_{i \in E}\varphi_{X,Y}(u_i) \psi\left(\sum_{i \in E} c_{i} u_{i} \right). \end{aligned}

ψ\psi は加法指標なので

ψ(iEciui)=iEψ(ciui)\psi\left(\sum_{i \in E} c_{i} u_{i} \right) = \prod_{i \in E} \psi(c_i u_i)

である.したがって

FX,Y^(c)=uFqEiEφX,Y(ui)ψ(ciui)=iE(aFqφX,Y(a)ψ(cia)).\begin{aligned} \widehat{F_{X,Y}}(c) &= \sum_{u \in \mathbb{F}_{q}^{E}} \prod_{i \in E}\varphi_{X, Y}(u_{i})\psi(c_{i} u_{i})\\ &= \prod_{i \in E} \left( \sum_{a \in \mathbb{F}_{q}}\varphi_{X,Y}(a)\psi(c_{i} a) \right). \end{aligned}

最後の等号では,有限直積上の和が各座標の和の積に分解することを用いた. 例えば E={1,2}E=\{1,2\} なら,

u1,u2A1(u1)A2(u2)=(u1A1(u1))(u2A2(u2))\sum_{u_{1},u_{2}} A_{1}(u_{1})A_{2}(u_{2}) = \left(\sum_{u_{1}} A_{1}(u_{1})\right) \left(\sum_{u_{2}} A_{2}(u_{2})\right)

となるのと同じです.

定理 9.1 より,各座標 ii の因子は

{X+(q1)Y,ci=0,XY,ci0\begin{cases} X + (q - 1)Y, & c_{i} = 0,\\ X - Y, & c_{i} \neq 0 \end{cases}

である.cc の零座標の個数は nwt(c)n - \wt(c),非零座標の個数は wt(c)\wt(c) なので,

FX,Y^(c)=(X+(q1)Y)nwt(c)(XY)wt(c)\widehat{F_{X,Y}}(c) = \bigl( X + (q - 1)Y \bigr)^{n - \wt(c)}(X - Y)^{\wt(c)}

を得る.

証明終わり

この定理は,MacWilliams恒等式の変数変換そのものです. 変数 X+(q1)YX + (q - 1)YXYX - Y は,重み関数の一座標指標和から現れます.

MacWilliams恒等式の証明

いよいよMacWilliams恒等式を証明します.ここまでの準備を組み合わせるだけです.

V=FqEV = \mathbb{F}_{q}^{E} とし,FX,Y(u)=Xnwt(u)Ywt(u)F_{X,Y}(u) = X^{n - \wt(u)}Y^{\wt(u)} と置きます. すると

WC(X,Y)=uCFX,Y(u)W_{C^{\perp}}(X, Y) = \sum_{u \in C^{\perp}} F_{X, Y}(u)

です.定理 8.2f=FX,Yf = F_{X,Y} に適用すると,

WC(X,Y)=1CcCFX,Y^(c)W_{C^{\perp}}(X,Y) = \frac{1}{\card{C}} \sum_{c \in C}\widehat{F_{X,Y}}(c)

です.ここで 定理 10.1 より

FX,Y^(c)=(X+(q1)Y)nwt(c)(XY)wt(c)\widehat{F_{X,Y}}(c) = \bigl(X+(q-1)Y\bigr)^{n-\wt(c)}(X-Y)^{\wt(c)}

なので,

WC(X,Y)=1CcC(X+(q1)Y)nwt(c)(XY)wt(c)=1CWC(X+(q1)Y,XY).\begin{aligned} W_{C^{\perp}}(X,Y) &= \frac{1}{\card{C}} \sum_{c \in C} \bigl( X + (q - 1)Y \bigr)^{n - \wt(c)}(X - Y)^{\wt(c)}\\ &= \frac{1}{\card{C}} W_{C}\bigl(X + (q - 1)Y, X - Y \bigr). \end{aligned}

これでMacWilliams恒等式が証明されました.

この証明の流れを一文で言えば,次のようになります.

固定した同型 uχuu \mapsto \chi_{u} を通して見ると, uCu \in C^{\perp} のとき,対応する指標 χu\chi_{u}CC 上で自明になり, 重み関数の指標和変換がMacWilliams変数変換を与える.

小さな例:符号長 22 の二元反復符号

指標和がどのように双対符号を取り出しているかを,小さな例で見ておきます. F22\mathbb{F}_{2}^{2} 上の符号

C={(0,0),(1,1)}C = \{ (0, 0), (1, 1) \}

を考えます. これは一次元の反復符号です. F2\mathbb{F}_{2} の非自明加法指標として

ψ(a)=(1)a\psi(a) = (-1)^{a}

を取ります.

この符号は自己双対です.実際,u=(u1,u2)u = (u_{1}, u_{2})CC の元 (1,1)(1, 1) と直交する条件は

u1+u2=0u_{1} + u_{2} = 0

であり,これは u=(0,0)u = (0, 0) または u=(1,1)u = (1, 1) を意味します. したがって C=CC^{\perp} = C です.

系 7.3 は,uF22u \in \mathbb{F}_{2}^{2} に対して

12cC(1)uc={1,uC,0,uC\frac{1}{2}\sum_{c \in C}(-1)^{u \cdot c} = \begin{cases} 1, & u \in C^{\perp},\\ 0, & u \notin C^{\perp} \end{cases}

となることを主張しています. 実際,C={(0,0),(1,1)}C = \{ (0, 0), (1, 1) \} なので,左辺は

12(1+(1)u1+u2)\frac{1}{2}\left( 1 + (-1)^{u_{1} + u_{2}} \right)

です.これは u1+u2=0u_{1} + u_{2} = 0 のとき 11u1+u2=1u_{1} + u_{2} = 1 のとき 00 になります. つまり,指標和が CC^{\perp} の指示関数を作っています.

重み多項式は

WC(X,Y)=X2+Y2W_{C}(X, Y) = X^{2} + Y^{2}

です.MacWilliams恒等式の右辺は

1CWC(X+Y,XY)=12((X+Y)2+(XY)2)=X2+Y2\begin{aligned} \frac{1}{\card{C}} W_{C}(X + Y, X - Y) &= \frac{1}{2}\left((X + Y)^{2} + (X - Y)^{2} \right)\\ &= X^{2} + Y^{2} \end{aligned}

となり,WC(X,Y)=WC(X,Y)W_{C^{\perp}}(X,Y)=W_{C}(X,Y) と一致します.

この例では,すべての計算が

(1)uc(-1)^{u \cdot c}

という指標の直交関係から出ていることが見えます.

なお,この例では q=2q=2 なので,非自明加法指標 ψ(x)=(1)x\psi(x)=(-1)^{x}

ψ(x)=1    x=0\psi(x) = 1 \implies x=0

という性質を持っています. しかし q=pmq=p^{m}m>1m>1 の場合には,非零の xx でも Tr(x)=0\Tr(x)=0 となることがあり, そのような xx に対してトレースから作った ψ\psiψ(x)=1\psi(x)=1 になります. したがって一般の証明では,ψ(uc)=1\psi(u\cdot c)=1 から uc=0u\cdot c=0 と結論せず, CCFq\mathbb{F}_{q} 線形性を使っています.

この証明で指標論は何をしていたか

証明の中で指標論が担っていた役割を整理しておきます.

第一に,指標論は双対符号の意味を変えました.通常,双対符号は内積によって

C={uFqE:uc=0 for all cC}C^{\perp} = \{ u \in \mathbb{F}_{q}^{E} : u \cdot c = 0 \text{ for all }c\in C\}

と定義されます. 固定した同型 uχuu \mapsto \chi_{u} を通して見ると,uCu \in C^{\perp} であることは, 対応する指標 χu\chi_{u}CC 上で自明であることと同値です. 実際,これは

uC    χu(c)=1 for all cCu \in C^{\perp} \iff \chi_{u}(c) = 1 \text{ for all } c \in C

と書けます.

第二に,指標の直交関係により,CC^{\perp} の指示関数が

1C(u)=1CcCψ(uc)\mathbf{1}_{C^{\perp}}(u) = \frac{1}{\card{C}}\sum_{c \in C}\psi(u\cdot c)

と書けました. これにより,CC^{\perp} 上の和を CC 上の和に変換できました.

第三に,重み関数

FX,Y(u)=Xnwt(u)Ywt(u)F_{X, Y}(u) = X^{n - \wt(u)} Y^{\wt(u)}

の指標和変換が,各座標の指標和に分解しました. 一座標の計算

aFqφX,Y(a)ψ(ba)={X+(q1)Y,b=0,XY,b0\sum_{a \in \mathbb{F}_{q}} \varphi_{X, Y}(a) \psi(ba) = \begin{cases} X + (q - 1)Y, & b = 0,\\ X - Y, & b \neq 0 \end{cases}

から,MacWilliams恒等式の変数変換が現れました.

したがって,指標論的証明の要点は次の三つです.

  1. FqE\mathbb{F}_{q}^{E} の元を指標 vψ(uv)v \mapsto \psi(u \cdot v) として見る.

  2. 固定した同型 uχuu \mapsto \chi_{u} を通して,CC^{\perp}CC 上で自明な指標に対応させる.

  3. 指標直交性により,CC^{\perp} 上の重み和を CC 上の指標和へ変換する.

この三つが組み合わさって,MacWilliams恒等式が得られます.

この回で見た概念

この回では,MacWilliams恒等式の証明を目標にしながら, 有限アーベル群の指標論の基本的な道具を導入しました. 整理すると次のようになります.

有限アーベル群

加法に関して結合律,零元,逆元,可換性を持つ有限集合です. FqE\mathbb{F}_{q}^{E} は有限アーベル群です.

指標

有限アーベル群 GG から C×\mathbb{C}^{\times} への群準同型

χ ⁣:GC×\chi\colon G\to\mathbb{C}^{\times}

です.加法を掛け算に変える関数です.

自明な指標

すべての元を 11 に送る指標です.

指標群

GG の指標全体 G^=Hom(G,C×)\widehat{G} = \Hom(G,\mathbb{C}^{\times}) です.点ごとの積で有限アーベル群になります.

加法指標

有限体 Fq\mathbb{F}_{q} の加法群の指標です. 非自明な加法指標 ψ\psi を固定すると, uFqEu \in \mathbb{F}_{q}^{E} から指標

χu(v)=ψ(uv)\chi_{u}(v) = \psi(u \cdot v)

が得られます.

直交関係

非自明な指標の群全体での和は 00 になります. 部分群上でも,同じように,その部分群上で自明でない指標の和は 00 になります.

零化部分群

部分群 HGH \leq G に対し,HH 上で自明になる指標全体

H={χG^:χ(h)=1 for all hH}H^{\circ} = \{ \chi \in \widehat{G}:\chi(h) = 1\text{ for all }h\in H\}

です.符号理論では,固定した同型 uχuu \mapsto \chi_{u} を通して, CC の零化部分群が CC^{\perp} に対応します.

有限Poisson和公式

関数 f ⁣:FqECf\colon\mathbb{F}_{q}^{E} \to \mathbb{C} に対して

uCf(u)=1CcCf^(c)\sum_{u \in C^{\perp}}f(u) = \frac{1}{\card{C}}\sum_{c\in C}\widehat{f}(c)

という形で,双対符号上の和を元の符号上の和に変換する公式です.

今回の証明では,指標論を使って CCCC^{\perp} の関係を 「直交補」から「零化部分群との対応」へ読み替えました. この読み替えにより,双対符号が指標の直交関係から自然に出てきます.

今回の系統の振り返り

冒頭で述べたように,今回の証明は

Fourier・指標・Poisson系

に属します. 表面的には,有限アーベル群の指標を使った証明です. しかし,深いところでは,有限アーベル群上のFourier解析を使っています.

より具体的には,次の対応がありました.

指標 χu(v)=ψ(uv)\chi_u(v)=\psi(u\cdot v) \quad\longleftrightarrow\quad Fourier解析の基底関数

CC^{\perp} \quad\longleftrightarrow\quad 固定した同型 uχuu \mapsto \chi_{u} を通して対応する CC 上で自明な指標たち,すなわち CC^{\circ}

MacWilliams変数変換 \quad\longleftrightarrow\quad 一座標の指標和変換

この見方では,MacWilliams恒等式は,有限アーベル群上のPoisson和公式の特殊な場合です. ただし,連続的な解析で出てくるPoisson和公式と違って,ここではすべての和が有限和です. そのため,収束や積分の問題は現れません.

今回の証明の要点は,次の一文にまとめられます.

固定した同型 uχuu \mapsto \chi_{u} を通して見ると, CC^{\perp}CC 上で自明になる指標たち,すなわち CC^{\circ} に対応する. この対応と指標直交性により,CC^{\perp} 上の重み和を,元の符号 CC 上の指標和へ変換できる.

この考え方は,古典的なMacWilliams恒等式だけでなく, 完全重み多項式,有限アーベル群上の加法的符号,Frobenius環上の符号など, より一般のMacWilliams型恒等式にも現れます.

Wood [Woo99] によって証明された Frobenius環上のMacWilliams恒等式では, 生成指標を用いた環と指標群の同一視が中心的役割を果たします. さらに進んだ一般化として,Wood [Woo99]より少し具体的に 「有限Frobenius環上のMacWilliams型恒等式」を扱う文献として [HL01] が挙げられます. ここでは,有限Frobenius環上の線形符号について, 複数の重み分布に対するMacWilliams型恒等式が統一的に扱われています.

次回へ

次回は,今回の指標論的証明を,行列とテンソル積の言葉で見直します.

今回の証明では,Fq\mathbb{F}_{q} の非自明加法指標 ψ\psi を使って, 各座標で

aFqφX,Y(a)ψ(ba)\sum_{a\in\mathbb{F}_{q}}\varphi_{X,Y}(a)\psi(ba)

という和を計算しました. この一座標の変換は,実は q×qq\times q 行列として表せます. そして,長さ nn の符号に対する変換は,その行列の nn 回テンソル積として表せます.

つまり,今回の証明を

指標和 → 行列 → テンソル積

という形で翻訳できます. 指標論を見えないところへ押し込めると,MacWilliams恒等式は 「あるHadamard型行列のテンソル積が重み多項式に作用する公式」として見えてきます.

同じFourier・指標・Poisson系の証明であっても, 指標を前面に出すか,行列を前面に出すかで,見え方は大きく変わります. 次回は,その違いを見ながら,テンソル積線形代数に入門します.

脚注

  1. とはいえ,完全に忘れ去ってすべての議論が進むわけではありません. 多くの部分は加法群としての構造で進みますが, 後で述べる零化部分群 CC^{\circ} と通常の双対符号 CC^{\perp} を一致させる場面では, aFqa \in \mathbb{F}_{q} かつ cCc \in C なら acCac \in C という, CCFq\mathbb{F}_{q}-線形性を使います.
  2. xx^{\prime}xx^{\prime\prime} がいずれも xGx \in G の逆元であるとすると, x=x+0=x+(x+x)=(x+x)+x=0+x=xx^{\prime} = x^{\prime} + 0 = x^{\prime} + (x + x^{\prime\prime}) = (x^{\prime} + x) + x^{\prime\prime} = 0 + x^{\prime\prime} = x^{\prime\prime} となります(証明から,可換性 (G4) の仮定がなくても成り立ちます).
  3. ここでは,加法記法の群 GG から乗法記法の群 GG^{\prime} への準同型 f ⁣:GGf \colon G \to G^{\prime} を考えます. GG の単位元を 00GG^{\prime} の単位元を 1G1_{G^{\prime}} とすると, f(0)=f(0)1G=f(0)(f(0)f(0)1)=(f(0)f(0))f(0)1=f(0+0)f(0)1=f(0)f(0)1=1Gf(0) = f(0)1_{G^{\prime}} = f(0)(f(0)f(0)^{-1}) = (f(0)f(0))f(0)^{-1} = f(0 + 0)f(0)^{-1} = f(0)f(0)^{-1} = 1_{G^{\prime}} です. が従います.
  4. xGx \in G の位数とは,mxx++xm 個=0mx \coloneqq \underbrace{x + \dots + x}_{m\text{ 個}} = 0 となる最小の正整数 mm のことでした (乗法の表記を用いる場合は xmxxm 個=1x^{m} \coloneqq \underbrace{x \dotsm x}_{m\text{ 個}} = 1 となる最小の正整数 mm のことです).
  5. 英語の annihilator は əˈnʌɪəleɪtə と発音します. 不正確を承知で,敢えてカタカナで表記すると「アナイアレイタ」に近いです. また,「零化」という名前ですが,指標の値が 00 になるという意味ではありません. 指標の値が乗法群の単位元 11 になる,すなわち部分群上で自明になるという意味です. 加群論の零化イデアルなどに倣って,ここではこの名前を使います.

参考文献

  1. [Ter99] Audrey Terras. Fourier analysis on finite groups and applications. Cambridge University Press, Cambridge, vol. 43, pp. x+442, 1999. doi:10.1017/CBO9780511626265
  2. [SS03] Elias M. Stein and Rami Shakarchi. Fourier analysis. Princeton University Press, Princeton, NJ, vol. 1, pp. xvi+311, 2003
  3. [LN97] Rudolf Lidl and Harald Niederreiter. Finite fields. Cambridge University Press, Cambridge, vol. 20, pp. xiv+755, 1997
  4. [Woo99] Jay A. Wood. Duality for modules over finite rings and applications to coding theory. Amer. J. Math., vol. 121, no. 3, pp. 555–575, 1999. http://muse.jhu.edu/journals/american_journal_of_mathematics/v121/121.3wood.pdf ↩1 ↩2
  5. [HL01] Thomas Honold and Ivan Landjev. MacWilliams identities for linear codes over finite Frobenius rings. Finite fields and applications (Augsburg, 1999), pp. 276–292, 2001

この連載

MacWilliams恒等式で学ぶシリーズ · 第2回 / 全12回

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