§1はじめに
符号理論における基本定理の一つに,MacWilliams恒等式があります. E を座標集合とする有限体 Fq 上の線形符号 C≤FqE に対して,その双対符号
C⊥={u∈FqE:u⋅c=0 for all c∈C}
の重み多項式は,C の重み多項式から次のように計算できます:
WC⊥(X,Y)=∣C∣1WC(X+(q−1)Y,X−Y).
これがMacWilliams恒等式です.
この連載では,MacWilliams恒等式の証明を手掛かりに, 周辺分野・周辺概念への入門を試みます. そのため,本連載では以下のような読者を対象としています:
符号理論の初歩,具体的には
程度は既知であることを前提としています (MacWilliams恒等式の証明は知らなくても問題ありません).
この連載では,MacWilliams恒等式の証明手法を大きく次の五つの系統に分けて眺めます.
今回の証明は,このうち「Fourier・指標・Poisson系」に着目します. ただし,本稿ではいきなりFourier変換やPoisson和公式という言葉を前面に出すのではなく, その最も基本的な構成要素である有限アーベル群の指標から始めます. つまり,第2回の目標は,MacWilliams恒等式の証明を案内役として, 有限アーベル群の指標論に入門することです.
前回は,台の包含関係とMöbius反転を使ってMacWilliams恒等式を証明しました. それに対して今回は,同じ恒等式を有限アーベル群の指標とその直交関係から証明します. 前回の主役が「台の包含関係」だったのに対し, 今回の主役は「群の双対性」と「指標の直交関係」です.
ここでいう指標論は,有限群の表現論全体を扱うものではありません. 本稿で必要になるのは,有限アーベル群 G から複素数の乗法群 C× への準同型
χ:G→C×
です. これを G の指標と呼びます. 有限アーベル群の指標は,群の元を複素数の 1 の冪根へ写し, 足し算を掛け算に変える関数です. そして,指標たちは非常に強い直交関係を満たします. この直交関係が,固定した同型を通して双対符号 C⊥ に対応する条件を取り出してくれます.
今回の流れは次のようになります.
加法群として見る → 指標 → 指標群 → 直交関係 → 零化部分群 → 有限Poisson和公式 → MacWilliams恒等式
MacWilliams恒等式の証明だけを見るなら,必要な式はそれほど多くありません. 本質的には
c∈C∑ψ(u⋅c)={∣C∣,0,u∈C⊥,u∈/C⊥
という一つの直交関係に集約されます. しかし,この式だけを孤立した計算として使ってしまうと, 指標論という分野の見通しが悪くなります. そこで本稿では,まず有限アーベル群の指標,指標群,零化部分群を導入し, その後でMacWilliams恒等式へ応用します.
有限群の指標と有限Fourier解析については, Terras [Ter99] や Stein–Shakarchi [SS03] が標準的な参考文献です. 有限体のトレース写像や加法指標については,Lidl–Niederreiter [LN97] を参照してください.
§2符号を加法群として見る
まず,符号理論の対象を少しだけ見方を変えて眺めます. FqE は有限体上のベクトル空間ですが, スカラー倍のことは忘れて足し算だけに集中すれば,有限アーベル群でもあります.
定義2.1.
集合 G に加法 + と零元 0 が与えられているとする. G がアーベル群 (abelian group) であるとは, 任意の x,y,z∈G に対して次が成り立つことをいう:
(x+y)+z=x+(y+z).
x+0=0+x=x.
各 x に対して,ある元 x′∈G が存在して,x+x′=x′+x=0.
x+y=y+x.
(G3)各 x に対して,ある元 x′∈G が存在して,x+x′=x′+x=0.(G3) における x′ を x の (加法) 逆元といいます. 各 x∈G に対して x′ は一意に定まることが直ちにわかるので,これを −x:=x′ と書くのでした. 有限体 Fq は,足し算に関して有限アーベル群です. したがって,その直積である FqE も有限アーベル群です. 線形符号 C≤FqE は,ベクトル部分空間であると同時に,この加法群の部分群でもあります.
指標論的な証明では,この「加法群としての構造」を使います. つまり,ベクトル空間のスカラー倍よりも,まずは加法群としての FqE と その部分群 C に注目します.
ただし,双対符号
C⊥={u∈FqE:u⋅c=0 for all c∈C}
は内積を使って定義されています. 指標論的証明の面白い点は,この内積による直交補が, 「C 上で自明になる指標たち」として自然に現れることです. そのために,まずは有限アーベル群の指標を導入します.
§3有限アーベル群の指標
本稿で扱う群はアーベル群なので,演算を加法で書きます. 一方,複素数の非零元全体
C×=C∖{0}
は掛け算で群になります.指標とは,加法を掛け算に移す写像です.
定義3.1.
G を有限アーベル群とする. G の指標 (character) とは,群準同型
χ:G→C×
のことである.つまり,任意の x,y∈G に対して
χ(x+y)=χ(x)χ(y)
が成り立つ写像である.
群準同型は単位元を保つので,常に χ(0)=1 です.
定義3.2.
G の指標 χ が自明 (trivial) であるとは, 任意の x∈G に対して
となることをいう. 自明な指標を 1G と書くことにする.
有限群の指標は,必ず 1 の冪根を値に取ります. 実際,x∈G の位数を m とすると,mx=0 です. したがって
χ(x)m=m 個χ(x)⋯χ(x)=χ(m 個x+⋯+x)=χ(mx)=χ(0)=1
です.つまり,指標は有限群の元を複素平面上の単位円の有限個の点へ写します.
例3.3(Z/NZ の指標).
巡回群 Z/NZ を加法群として考える. a∈Z/NZ に対して
χa(x)=exp(N2π−1ax)
と定めると,これは Z/NZ の指標である. ここで a と x は剰余類の代表元として整数を取っている. 代表元の取り方を変えても値は変わらないので,この定義は well-defined である. 特に,N 乗して 1 になる複素数は
exp(N2π−1a)(a=0,1,…,N−1)
の形にちょうど書ける.
実は,Z/NZ の指標はこれですべてである. なぜなら,指標 χ は生成元 1ˉ の値で決まり, N1ˉ=0ˉ だから
χ(1ˉ)N=χ(0ˉ)=1
である.したがって χ(1ˉ) は N 乗して 1 になる複素数であり, その選び方は N 通りである.
例えば N=4,つまり G=Z/4Z のとき,a=1 に対応する指標は
χ1(0)=1,χ1(1)=−1,χ1(2)=−1,χ1(3)=−−1
である.
例3.4(F2 の加法指標).
F2={0,1} を加法群として見る. このとき
ψ(x)=(−1)x
で定まる ψ:F2→C× は F2 の指標である. 実際,ψ(0)=1, ψ(1)=−1 であり, F2 の加法に対して
ψ(x+y)=ψ(x)ψ(y)
が成り立つ.
定義3.5.
有限体 Fq の加法群の指標を, Fq の加法指標 (additive character) と呼ぶ.
q=pm とします.ここで p は素数です.有限体のトレース写像
TrFq/Fp(a)=a+ap+ap2+⋯+apm−1
を使うと,加法指標を具体的に書けます. 例えば
ψ(a)=exp(p2π−1TrFq/Fp(a))
で加法指標 ψ を定めます. ここで TrFq/Fp(a) は Fp の元なので, 指数関数に入れるときは Fp≅Z/pZ と同一視し, 代表元 0,1,…,p−1 を用いています. この値は p を法とした剰余類だけに依存するので,代表元の取り方には依存しません. この ψ が加法指標になるのは,トレース写像が加法的だからです. 実際,
ψ(a+b)=exp(p2π−1TrFq/Fp(a+b))=ψ(a)ψ(b)
が成り立ちます. また,有限体の拡大は分離的なので,TrFq/Fp は零写像ではありません. 本稿ではこの事実を有限体論の基本事実として用います. また,TrFq/Fp は非零な Fp 線形写像なので, その像は Fp 全体です.したがって
TrFq/Fp(a)=1
となる a∈Fq が存在し,そのような a に対して
ψ(a)=exp(p2π−1)=1
ですから,ψ は自明ではありません.
より一般に,t∈Fq に対して
ψt(a)=ψ(ta)
と定めると,ψt も加法指標です. t=0 のとき ψt は自明な指標です. また,t=0 のときは a↦ta が Fq の全単射なので, もし ψt が自明なら ψ も自明になってしまいます. したがって,t=0 のとき ψt は非自明な指標です.
なお,q=pm,m>1 のとき,TrFq/Fp は Fp 上 m 次元の空間 Fq から 1 次元の空間 Fp への非零線形写像なので, その核は非自明です. したがって,トレースから作る加法指標では,非零の x∈Fq に対しても
となることがあります. したがって一般には
ψ(x)=1⟹x=0
は成り立ちません.この点は,後で C∘ と C⊥ を比べるときに重要になります.
補題3.6.
ψ を Fq の非自明な加法指標とする. このとき,Fq の任意の加法指標 η は, ただ一つの t∈Fq によって
η(a)=ψ(ta)(a∈Fq)
と書ける.
証明
すでに見たように,各 t∈Fq に対して
ψt(a)=ψ(ta)
は加法指標である.
次に,t=t′ なら ψt=ψt′ であることを示す. 実際,
ψt(a)ψt′(a)−1=ψ((t−t′)a)
であり,t−t′=0 なので a↦(t−t′)a は Fq の全単射である. したがって右辺は非自明な加法指標であり,ψt と ψt′ は一致しない. よって,少なくとも q 個の相異なる加法指標がある.
逆に,加法指標の個数は高々 q 個であることを示す. q=pm とし,α1,…,αm を Fq の Fp-基底とする. 任意の加法指標 η と任意の a∈Fq に対して, 加法群では pa=0 なので
η(a)p=η(pa)=η(0)=1
である. したがって,各 η(a) は複素数の p 乗して 1 になる元である.
また,任意の a∈Fq は一意的に
a=b1α1+⋯+bmαm(b1,…,bm∈Fp)
と書けるから, ここで bi を指数として書くときは, Fp の元を 0,1,…,p−1 の代表元で表しているものとする.
η(a)=η(α1)b1⋯η(αm)bm
である. すなわち,η は基底 α1,…,αm 上の値で決まる. 各 η(αi) の選択肢は高々 p 個なので,加法指標全体の個数は高々 pm=q 個である.
以上より,加法指標はちょうど q 個であり,
{ψt:t∈Fq}
がその全体である. 一意性は,すでに示した ψt=ψt′ から従う.
証明終わり□
以後,本稿では Fq の非自明な加法指標を一つ固定し,それを ψ と書きます. MacWilliams恒等式の指標論的証明では,どの非自明な加法指標を選んでも同じ結果が得られます.
§4指標群
指標全体は,それ自身が群になります.
定義4.1.
有限アーベル群 G の指標全体の集合を
G:=Hom(G,C×)
と書く.これを G の指標群 (character group) という.
G には,指標の点ごとの積で群構造が入ります. つまり,χ,η∈G に対して
(χη)(x)=χ(x)η(x)(x∈G)
と定めます. 単位元は自明な指標 1G であり,χ の逆元 χ−1 は
χ−1(x)=χ(x)−1
で与えられます.
定理4.2.
有限アーベル群 G に対して
G=∣G∣
が成り立つ.
証明
ここでは,有限アーベル群の基本定理をブラックボックスとして用いる. 有限アーベル群の基本定理より,G は有限個の巡回群の直積
Z/N1Z×Z/N2Z×⋯×Z/NrZ
と同型である. 例 3.3(\mathbbZ/N\mathbbZ の指標)巡回群 Z/NZ を加法群として考える. a∈Z/NZ に対して
χa(x)=exp(N2π−1ax)
と定めると,これは Z/NZ の指標である. ここで a と x は剰余類の代表元として整数を取っている. 代表元の取り方を変えても値は変わらないので,この定義は well-defined である. 特に,N 乗して 1 になる複素数は
exp(N2π−1a)(a=0,1,…,N−1)
の形にちょうど書ける.
実は,Z/NZ の指標はこれですべてである. なぜなら,指標 χ は生成元 1ˉ の値で決まり, N1ˉ=0ˉ だから
χ(1ˉ)N=χ(0ˉ)=1
である.したがって χ(1ˉ) は N 乗して 1 になる複素数であり, その選び方は N 通りである.
例えば N=4,つまり G=Z/4Z のとき,a=1 に対応する指標は
χ1(0)=1,χ1(1)=−1,χ1(2)=−1,χ1(3)=−−1
である.例 3.3 で見たように,Z/NZ の指標は N 個ある. また,直積群の指標は各成分の指標の積として得られる. 実際,χ∈G1×G2 に対して
χ1(x1)=χ(x1,0),χ2(x2)=χ(0,x2)
とおけば,
χ(x1,x2)=χ((x1,0)+(0,x2))=χ1(x1)χ2(x2)
である. 逆に,χ1∈G1 と χ2∈G2 が与えられたとき,
χ(x1,x2):=χ1(x1)χ2(x2)
と定めれば,
χ((x1,x2)+(y1,y2))=χ(x1,x2)χ(y1,y2)
が成り立つので,これは G1×G2 の指標である. したがって,直積群の指標は各成分の指標の組と一対一に対応する. したがって,直積を取ると指標の個数も積になる. よって G=∣G∣ が従う.
証明終わり□
この定理は,「有限アーベル群は,自分自身と同じ個数の指標を持つ」ということを意味します. ただし,自然に G≅G と同一視できるとは限りません. 同一視を作るには,追加の選択が必要です. なお,有限アーベル群では G と G の間には自然な対応がありますが, G と G の対応には一般に選択が入ります. 本稿では,非自明加法指標 ψ と標準内積を選ぶことで, 後に FqE とその指標群を具体的に結びます. 符号理論では,標準内積と非自明な加法指標を選ぶことで,具体的な同一視を作ります.
なお,定理 4.2有限アーベル群 G に対して
G=∣G∣
が成り立つ.定理 4.2 は一般の有限アーベル群についての背景定理であり, その証明では有限アーベル群の基本定理を黒箱として用いました. しかし,本稿で実際に必要になる G=FqE の場合には, この一般定理を使わず,有限体の加法指標の具体的な記述から直接証明できます. 次節では,そちらの直接証明を主ルートとして用います.
§5FqE の指標
以後,座標集合 E は有限集合とし,n=∣E∣ とします. ここでは,Fq の非自明な加法指標 ψ と標準内積
u⋅v=i∈E∑uivi
を固定します.
u∈FqE に対して,写像
χu:FqE→C×
を
χu(v):=ψ(u⋅v)=ψ(i∈E∑uivi)
で定めます. これは FqE の加法群の指標です. 実際,v,w∈FqE に対して
χu(v+w)=ψ(u⋅(v+w))=ψ(u⋅v+u⋅w)=ψ(u⋅v)ψ(u⋅w)=χu(v)χu(w)
です.
定理5.1.
写像
Φ:FqE→FqE,u↦χu
は群同型である.
証明
Φ が群準同型であること
u,u′∈FqE に対して
χu+u′(v)=ψ((u+u′)⋅v)=ψ(u⋅v)ψ(u′⋅v)=χu(v)χu′(v)
であるから,Φ は群準同型である.
Φ が全射であること
任意の指標 χ:FqE→C× を取る. 各 i∈E に対して,i 成分が 1 で他の成分が 0 であるベクトルを ei とし,
χi(a):=χ(aei)(a∈Fq)
と定める. このとき χi は Fq の加法指標である. 実際,
χi(a+b)=χ((a+b)ei)=χ(aei+bei)=χi(a)χi(b)
である.
補題 3.6ψ を Fq の非自明な加法指標とする. このとき,Fq の任意の加法指標 η は, ただ一つの t∈Fq によって
η(a)=ψ(ta)(a∈Fq)
と書ける.補題 3.6 より,各 i∈E に対してただ一つの ui∈Fq が存在して
χi(a)=ψ(uia)(a∈Fq)
と書ける. u=(ui)i∈E とおく.
任意の v=(vi)i∈E∈FqE に対して
v=i∈E∑viei
であるから,
χ(v)=i∈E∏χ(viei)=i∈E∏χi(vi)=i∈E∏ψ(uivi)=ψ(i∈E∑uivi)=χu(v)
となる.したがって,χ=χu であり,Φ は全射である.
Φ が単射であること
χu=χu′ とする. 任意の i∈E と任意の a∈Fq に対して
ψ(uia)=χu(aei)=χu′(aei)=ψ(ui′a)
である. 補題 3.6ψ を Fq の非自明な加法指標とする. このとき,Fq の任意の加法指標 η は, ただ一つの t∈Fq によって
η(a)=ψ(ta)(a∈Fq)
と書ける.補題 3.6 の一意性より ui=ui′ が従う. これはすべての i∈E について成り立つので,u=u′ である. よって Φ は単射である.
よって Φ は全単射な群準同型であるため,群同型である.
証明終わり□
一般の有限アーベル群の個数定理を使う別証明もあります. まず上と同様に Φ が群準同型であることを示し, さらに χu が自明指標なら u=0 であることを従来通り確かめます. 実際,u=0 なら,ある i∈E に対して ui=0 です. ψ は非自明なので,ある a∈Fq が存在して ψ(a)=1 です. v∈FqE を
vi=a/ui,vj=0(j=i)
で定めると,u⋅v=a なので
χu(v)=ψ(a)=1
となり,χu は自明ではありません. したがって Φ は単射です. さらに FqE=qn であり, 定理 4.2有限アーベル群 G に対して
G=∣G∣
が成り立つ.定理 4.2 により
FqE=qn
ですから,有限集合の間の単射 Φ は全射でもあります. この別証明は一般の有限アーベル群についての個数定理を使っていますが, 上の主証明はそれを使っていません.
この同型は,固定した非自明な加法指標 ψ と標準内積の選択に依存しています. その選択のもとで,FqE の元 u を, 指標 v↦ψ(u⋅v) と同一視できるようになります. 実は,MacWilliams恒等式の証明そのものに必要なのは, 各 u∈FqE から指標 χu(v)=ψ(u⋅v) が得られることと, その指標が C 上で自明であることと u∈C⊥ が同値であることだけです. 本稿では指標論入門として,さらに FqE の指標がすべてこの形で書けることも説明します.
§6指標の直交関係
指標論の最も基本的な事実は,非自明な指標の和は消える,というものです.
定理6.1.
G を有限アーベル群とし,χ∈G とする. このとき
x∈G∑χ(x)={∣G∣,0,χ=1G,χ=1G
が成り立つ.
証明
χ=1G なら,すべての x∈G に対して χ(x)=1 なので, 和は ∣G∣ である.
次に χ=1G とする. このとき,ある a∈G が存在して χ(a)=1 である.
S:=x∈G∑χ(x)
とおく. x が G 全体を動くとき,x+a も G 全体を一度ずつ動くので,
S=x∈G∑χ(x+a)=x∈G∑χ(x)χ(a)=χ(a)S.
よって (1−χ(a))S=0 である. いま χ(a)=1 なので,S=0 となる.
証明終わり□
この定理は,群全体に対する直交関係です. MacWilliams恒等式では,符号 C という部分群上で和を取ります. その場合も同じ議論が使えます.
系6.2(部分群上の直交関係).
G を有限アーベル群,H≤G を部分群とする. χ∈G に対して
h∈H∑χ(h)={∣H∣,0,χ(h)=1 for all h∈H,otherwise
が成り立つ.
証明
この直交関係の意味を,少し言葉で整理しておきます. 指標 χ が H 上で常に 1 なら,和は単に 1 を ∣H∣ 個足すだけなので ∣H∣ です. 一方,H 上で少しでも振動するなら,値が複素平面上で打ち消し合い,和は 0 になります.
§7零化部分群:部分群上で自明になる指標
部分群上で自明になる指標たちには名前を付けます.
定義7.1.
G を有限アーベル群,H≤G を部分群とする. H の零化部分群 (annihilator) を
H∘:={χ∈G:χ(h)=1 for all h∈H}
で定める.
H∘ は G の部分群です. 実際,自明指標 1G は任意の h∈H に対して 1G(h)=1 なので H∘ に属します. また,χ,η∈H∘ なら任意の h∈H に対して
(χη)(h)=χ(h)η(h)=1
であり,また
χ−1(h)=χ(h)−1=1
ですから,部分群の条件を満たします. 系 6.2(部分群上の直交関係)G を有限アーベル群,H≤G を部分群とする. χ∈G に対して
h∈H∑χ(h)={∣H∣,0,χ(h)=1 for all h∈H,otherwise
が成り立つ.系 6.2 は,零化部分群を使うと次のように書けます.
h∈H∑χ(h)={∣H∣,0,χ∈H∘,χ∈/H∘.
この式を G=FqE,H=C に適用します. ここで,現れる対象の所在を整理しておきます.
- C⊥
FqE の部分空間であり,内積で C と直交するベクトル全体です.
- FqE
FqE の加法群の指標全体です.
- C∘
FqE の部分群であり,C 上で自明になる指標全体です.
- u↦χu
固定した ψ と標準内積に依存する同型であり, FqE と FqE を結びます.
したがって,厳密には C⊥ と C∘ は別々の場所にあります. 前者は FqE の部分空間であり,後者は FqE の部分群です. 以下で言う「対応」は,固定した同型 u↦χu を通した対応を意味します.
FqE とその指標群を 定理 5.1写像
Φ:FqE→FqE,u↦χu
は群同型である.定理 5.1 の同型
u⟼χu,χu(v)=ψ(u⋅v)
で結びます. この同型を通して見ると,C の零化部分群は C⊥ に対応します.
先に注意したように,一般に非自明な加法指標 ψ についても
ψ(x)=1⟹x=0
は成り立ちません.特に q=pm,m>1 のとき, トレースから作る標準的な加法指標は核を持ちます. したがって χu(c)=ψ(u⋅c)=1 から直ちに u⋅c=0 とは言えず, 後の証明では C の Fq-線形性を使います.
ここで次の補助事実を使います. ψ を Fq の非自明な加法指標とするとき,d∈Fq が d=0 なら
a⟼ψ(ad)
も非自明な加法指標です. 実際,a↦ad は Fq の全単射であり, もし ψ(ad)=1 がすべての a で成り立つなら,ψ は Fq 全体で 1 になってしまいます.
定理7.2.
上の同型のもとで,C∘ は C⊥ に対応する. すなわち,u∈FqE に対して
χu∈C∘⟺u∈C⊥
が成り立つ.
証明
(⟸)
u∈C⊥ とする. このとき任意の c∈C に対して u⋅c=0 であるから,
χu(c)=ψ(u⋅c)=ψ(0)=1.
よって χu∈C∘ である.
(⟹)
χu∈C∘ とする. u∈/C⊥ と仮定し,矛盾を導く. このとき,ある c0∈C が存在して u⋅c0=0 である. d=u⋅c0 とおくと d=0 であり, a↦ψ(ad) は Fq の非自明な加法指標である. したがって,ある a∈Fq に対して
ψ(ad)=1
となる. しかし C は線形符号なので ac0∈C であり,
χu(ac0)=ψ(u⋅ac0)=ψ(a(u⋅c0))=ψ(ad)=1.
これは χu が C 上で自明であることに反する. よって u∈C⊥ である.
以上により,χu∈C∘ と u∈C⊥ は同値である.
証明終わり□
この定理によって,固定した同型 u↦χu を通して見ると, u∈C⊥ であることは,対応する指標 χu が C 上で自明であることと同値になります. この見方が,指標論的証明の中心です.
系7.3.
任意の u∈FqE に対して
∣C∣1c∈C∑ψ(u⋅c)={1,0,u∈C⊥,u∈/C⊥
が成り立つ.
証明
系 6.2(部分群上の直交関係)G を有限アーベル群,H≤G を部分群とする. χ∈G に対して
h∈H∑χ(h)={∣H∣,0,χ(h)=1 for all h∈H,otherwise
が成り立つ.系 6.2 を G=FqE, H=C, χ=χu に適用し, 定理 7.2上の同型のもとで,C∘ は C⊥ に対応する. すなわち,u∈FqE に対して
χu∈C∘⟺u∈C⊥
が成り立つ.定理 7.2 を使えばよい.
証明終わり□
この式は非常に重要です. 左辺は C 上の指標和です. 右辺は,u が C⊥ に入っているかどうかを表す指示関数です. つまり,
1C⊥(u)=∣C∣1c∈C∑ψ(u⋅c)
です. 指標論的証明では,この式を使って C⊥ 上の和を C 上の和に変換します.
§8有限Poisson和公式としての指標和
ここで,MacWilliams恒等式に入る前に,もう少し一般の形で公式を書いておきます. V=FqE とし,f:V→C を任意の関数とします.
ここでは係数 1/FqE を付けない形を採用します. 文献によっては正規化の置き方や符号の付け方が異なりますが, 本稿では後のMacWilliams恒等式に合わせてこの形を使います. また,本稿ではFourier反転公式そのものは使わず, C⊥ 上の和を C 上の和へ移すためにこの変換を使います.
この変換は通常,有限アーベル群上のFourier変換と呼ばれます. ただし本稿では,指標論入門という観点を保つため, 「指標で重みを付けて和を取る操作」として扱います.
有限Poisson和公式とは,C⊥ 上で直接和を取る代わりに, C 上の指標和へ変換する公式です. 名前は少し大きく聞こえますが,本稿で使う範囲では,高度な解析定理ではありません. 実際には,1C⊥ を指標和で表し,有限和の順序を入れ替えるだけです. 名前に Poisson と付いていますが,ここでは積分や極限は現れず, すべて有限集合上の和だけを扱います.
定理8.2(有限Poisson和公式).
任意の関数 f:FqE→C に対して
u∈C⊥∑f(u)=∣C∣1c∈C∑f(c)
が成り立つ.
証明
系 7.3任意の u∈FqE に対して
∣C∣1c∈C∑ψ(u⋅c)={1,0,u∈C⊥,u∈/C⊥
が成り立つ.系 7.3 より
1C⊥(u)=∣C∣1c∈C∑ψ(u⋅c)
である.したがって
u∈C⊥∑f(u)=u∈FqE∑f(u)1C⊥(u)=u∈FqE∑f(u)∣C∣1c∈C∑ψ(u⋅c)=∣C∣1c∈C∑u∈FqE∑f(u)ψ(c⋅u)=∣C∣1c∈C∑f(c).
ここで,u⋅c=c⋅u を用いた.
証明終わり□
係数の正規化を確認するために,f≡1 の場合を見ておきます. このとき左辺は C⊥ です. 一方,右辺で
f(0)=u∈FqE∑1=qn
であり,c=0 なら u↦ψ(c⋅u) は 定理 5.1写像
Φ:FqE→FqE,u↦χu
は群同型である.定理 5.1 により非自明な指標なので,
f(c)=u∈FqE∑ψ(c⋅u)=0
定理 6.1G を有限アーベル群とし,χ∈G とする. このとき
x∈G∑χ(x)={∣G∣,0,χ=1G,χ=1G
が成り立つ.定理 6.1 より成り立ちます. したがって右辺は
∣C∣qn
です. これは,通常の双対符号についての次元公式
dimC+dimC⊥=n
から従う
C⊥=∣C∣qn
と一致します. これは有限Poisson和公式の証明に使った事実ではなく, 係数 1/∣C∣ の正規化が整合していることの確認です.
この定理が,MacWilliams恒等式のほとんどすべてです. 上では f を複素数値関数として述べました. 以下で扱う FX,Y は C[X,Y] 値ですが, 各係数に対して複素数値関数の場合を適用すればよいので, 同じ証明をそのまま使えます. 以下では,重み多項式を扱うために,多項式値関数にもこの公式を適用します. 残る作業は,重み多項式に対応する関数 f を取り, その指標和変換 f を計算することだけです.
§9一座標の指標和
MacWilliams恒等式に使う関数は,各座標に分解できます. このため,まず一座標の計算をします.
X, Y を不定元とし,関数
φX,Y:Fq→C[X,Y]
を
φX,Y(a)={X,Y,a=0,a=0
で定めます.この関数は,一つの座標が 0 なら X,非零なら Y を返す関数です.
まず F2 の場合を見ておきます. 非自明加法指標を ψ(a)=(−1)a とすると,b=0 のとき
a∈F2∑φX,Y(a)ψ(0⋅a)=X+Y
であり,b=1 のとき
a∈F2∑φX,Y(a)ψ(a)=X−Y
です. これが,一般の場合の X+(q−1)Y と X−Y の原型になっています.
定理9.1.
b∈Fq に対して
a∈Fq∑φX,Y(a)ψ(ba)={X+(q−1)Y,X−Y,b=0,b=0
が成り立つ.
証明
まず b=0 とする.このとき ψ(ba)=ψ(0)=1 なので,
a∈Fq∑φX,Y(a)ψ(ba)=a∈Fq∑φX,Y(a)=X+(q−1)Y
である.
次に b=0 とする.このとき,a↦ba は Fq の置換であり, Fq× の置換でもある.よって
a∈Fq∑φX,Y(a)ψ(ba)=X+Ya∈Fq×∑ψ(ba)=X+Yt∈Fq×∑ψ(t).
ここで ψ は非自明な指標なので,定理 6.1G を有限アーベル群とし,χ∈G とする. このとき
x∈G∑χ(x)={∣G∣,0,χ=1G,χ=1G
が成り立つ.定理 6.1 より
t∈Fq∑ψ(t)=0
である.したがって
t∈Fq×∑ψ(t)=−ψ(0)=−1
である.よって
a∈Fq∑φX,Y(a)ψ(ba)=X−Y
となる.
証明終わり□
この一座標の計算から,変数変換
X⟼X+(q−1)Y,Y⟼X−Y
が現れます. 0 座標では X+(q−1)Y が現れ,非零座標では X−Y が現れる,というわけです.
§10重み関数の指標和変換
V=FqE とします. 重み多項式は,次の関数を使って書けます:
FX,Y(u):=Xn−wt(u)Ywt(u)(u∈V).
すると,任意の符号 D≤V に対して
WD(X,Y)=u∈D∑FX,Y(u)
です.
また,FX,Y は座標ごとの積として
FX,Y(u)=i∈E∏φX,Y(ui)
と書けます.この分解が,指標和変換の計算を一座標の計算へ落としてくれます.
証明
定義より
FX,Y(c)=u∈FqE∑FX,Y(u)ψ(c⋅u)=u∈FqE∑i∈E∏φX,Y(ui)ψ(i∈E∑ciui).
ψ は加法指標なので
ψ(i∈E∑ciui)=i∈E∏ψ(ciui)
である.したがって
FX,Y(c)=u∈FqE∑i∈E∏φX,Y(ui)ψ(ciui)=i∈E∏a∈Fq∑φX,Y(a)ψ(cia).
最後の等号では,有限直積上の和が各座標の和の積に分解することを用いた. 例えば E={1,2} なら,
u1,u2∑A1(u1)A2(u2)=(u1∑A1(u1))(u2∑A2(u2))
となるのと同じです.
定理 9.1b∈Fq に対して
a∈Fq∑φX,Y(a)ψ(ba)={X+(q−1)Y,X−Y,b=0,b=0
が成り立つ.定理 9.1 より,各座標 i の因子は
{X+(q−1)Y,X−Y,ci=0,ci=0
である.c の零座標の個数は n−wt(c),非零座標の個数は wt(c) なので,
FX,Y(c)=(X+(q−1)Y)n−wt(c)(X−Y)wt(c)
を得る.
証明終わり□
この定理は,MacWilliams恒等式の変数変換そのものです. 変数 X+(q−1)Y と X−Y は,重み関数の一座標指標和から現れます.
§11MacWilliams恒等式の証明
いよいよMacWilliams恒等式を証明します.ここまでの準備を組み合わせるだけです.
V=FqE とし,FX,Y(u)=Xn−wt(u)Ywt(u) と置きます. すると
WC⊥(X,Y)=u∈C⊥∑FX,Y(u)
です.定理 8.2(有限Poisson和公式)任意の関数 f:FqE→C に対して
u∈C⊥∑f(u)=∣C∣1c∈C∑f(c)
が成り立つ.定理 8.2 を f=FX,Y に適用すると,
WC⊥(X,Y)=∣C∣1c∈C∑FX,Y(c)
です.ここで 定理 10.1c∈FqE に対して
FX,Y(c)=(X+(q−1)Y)n−wt(c)(X−Y)wt(c)
が成り立つ.定理 10.1 より
FX,Y(c)=(X+(q−1)Y)n−wt(c)(X−Y)wt(c)
なので,
WC⊥(X,Y)=∣C∣1c∈C∑(X+(q−1)Y)n−wt(c)(X−Y)wt(c)=∣C∣1WC(X+(q−1)Y,X−Y).
これでMacWilliams恒等式が証明されました.
この証明の流れを一文で言えば,次のようになります.
固定した同型 u↦χu を通して見ると, u∈C⊥ のとき,対応する指標 χu は C 上で自明になり, 重み関数の指標和変換がMacWilliams変数変換を与える.
指標和がどのように双対符号を取り出しているかを,小さな例で見ておきます. F22 上の符号
C={(0,0),(1,1)}
を考えます. これは一次元の反復符号です. F2 の非自明加法指標として
ψ(a)=(−1)a
を取ります.
この符号は自己双対です.実際,u=(u1,u2) が C の元 (1,1) と直交する条件は
u1+u2=0
であり,これは u=(0,0) または u=(1,1) を意味します. したがって C⊥=C です.
系 7.3任意の u∈FqE に対して
∣C∣1c∈C∑ψ(u⋅c)={1,0,u∈C⊥,u∈/C⊥
が成り立つ.系 7.3 は,u∈F22 に対して
21c∈C∑(−1)u⋅c={1,0,u∈C⊥,u∈/C⊥
となることを主張しています. 実際,C={(0,0),(1,1)} なので,左辺は
21(1+(−1)u1+u2)
です.これは u1+u2=0 のとき 1,u1+u2=1 のとき 0 になります. つまり,指標和が C⊥ の指示関数を作っています.
重み多項式は
WC(X,Y)=X2+Y2
です.MacWilliams恒等式の右辺は
∣C∣1WC(X+Y,X−Y)=21((X+Y)2+(X−Y)2)=X2+Y2
となり,WC⊥(X,Y)=WC(X,Y) と一致します.
この例では,すべての計算が
(−1)u⋅c
という指標の直交関係から出ていることが見えます.
なお,この例では q=2 なので,非自明加法指標 ψ(x)=(−1)x は
ψ(x)=1⟹x=0
という性質を持っています. しかし q=pm,m>1 の場合には,非零の x でも Tr(x)=0 となることがあり, そのような x に対してトレースから作った ψ は ψ(x)=1 になります. したがって一般の証明では,ψ(u⋅c)=1 から u⋅c=0 と結論せず, C の Fq 線形性を使っています.
§13この証明で指標論は何をしていたか
証明の中で指標論が担っていた役割を整理しておきます.
第一に,指標論は双対符号の意味を変えました.通常,双対符号は内積によって
C⊥={u∈FqE:u⋅c=0 for all c∈C}
と定義されます. 固定した同型 u↦χu を通して見ると,u∈C⊥ であることは, 対応する指標 χu が C 上で自明であることと同値です. 実際,これは
u∈C⊥⟺χu(c)=1 for all c∈C
と書けます.
第二に,指標の直交関係により,C⊥ の指示関数が
1C⊥(u)=∣C∣1c∈C∑ψ(u⋅c)
と書けました. これにより,C⊥ 上の和を C 上の和に変換できました.
第三に,重み関数
FX,Y(u)=Xn−wt(u)Ywt(u)
の指標和変換が,各座標の指標和に分解しました. 一座標の計算
a∈Fq∑φX,Y(a)ψ(ba)={X+(q−1)Y,X−Y,b=0,b=0
から,MacWilliams恒等式の変数変換が現れました.
したがって,指標論的証明の要点は次の三つです.
FqE の元を指標 v↦ψ(u⋅v) として見る.
固定した同型 u↦χu を通して,C⊥ を C 上で自明な指標に対応させる.
指標直交性により,C⊥ 上の重み和を C 上の指標和へ変換する.
この三つが組み合わさって,MacWilliams恒等式が得られます.
§14この回で見た概念
この回では,MacWilliams恒等式の証明を目標にしながら, 有限アーベル群の指標論の基本的な道具を導入しました. 整理すると次のようになります.
- 有限アーベル群
加法に関して結合律,零元,逆元,可換性を持つ有限集合です. FqE は有限アーベル群です.
- 指標
有限アーベル群 G から C× への群準同型
χ:G→C×
です.加法を掛け算に変える関数です.
- 指標群
G の指標全体 G=Hom(G,C×) です.点ごとの積で有限アーベル群になります.
- 加法指標
有限体 Fq の加法群の指標です. 非自明な加法指標 ψ を固定すると, u∈FqE から指標
χu(v)=ψ(u⋅v)
が得られます.
- 直交関係
非自明な指標の群全体での和は 0 になります. 部分群上でも,同じように,その部分群上で自明でない指標の和は 0 になります.
- 零化部分群
部分群 H≤G に対し,H 上で自明になる指標全体
H∘={χ∈G:χ(h)=1 for all h∈H}
です.符号理論では,固定した同型 u↦χu を通して, C の零化部分群が C⊥ に対応します.
- 有限Poisson和公式
関数 f:FqE→C に対して
u∈C⊥∑f(u)=∣C∣1c∈C∑f(c)
という形で,双対符号上の和を元の符号上の和に変換する公式です.
今回の証明では,指標論を使って C と C⊥ の関係を 「直交補」から「零化部分群との対応」へ読み替えました. この読み替えにより,双対符号が指標の直交関係から自然に出てきます.
§15今回の系統の振り返り
冒頭で述べたように,今回の証明は
Fourier・指標・Poisson系
に属します. 表面的には,有限アーベル群の指標を使った証明です. しかし,深いところでは,有限アーベル群上のFourier解析を使っています.
より具体的には,次の対応がありました.
指標 χu(v)=ψ(u⋅v) ⟷ Fourier解析の基底関数
C⊥ ⟷ 固定した同型 u↦χu を通して対応する C 上で自明な指標たち,すなわち C∘
MacWilliams変数変換 ⟷ 一座標の指標和変換
この見方では,MacWilliams恒等式は,有限アーベル群上のPoisson和公式の特殊な場合です. ただし,連続的な解析で出てくるPoisson和公式と違って,ここではすべての和が有限和です. そのため,収束や積分の問題は現れません.
今回の証明の要点は,次の一文にまとめられます.
固定した同型 u↦χu を通して見ると, C⊥ は C 上で自明になる指標たち,すなわち C∘ に対応する. この対応と指標直交性により,C⊥ 上の重み和を,元の符号 C 上の指標和へ変換できる.
この考え方は,古典的なMacWilliams恒等式だけでなく, 完全重み多項式,有限アーベル群上の加法的符号,Frobenius環上の符号など, より一般のMacWilliams型恒等式にも現れます.
Wood [Woo99] によって証明された Frobenius環上のMacWilliams恒等式では, 生成指標を用いた環と指標群の同一視が中心的役割を果たします. さらに進んだ一般化として,Wood [Woo99]より少し具体的に 「有限Frobenius環上のMacWilliams型恒等式」を扱う文献として [HL01] が挙げられます. ここでは,有限Frobenius環上の線形符号について, 複数の重み分布に対するMacWilliams型恒等式が統一的に扱われています.
§16次回へ
次回は,今回の指標論的証明を,行列とテンソル積の言葉で見直します.
今回の証明では,Fq の非自明加法指標 ψ を使って, 各座標で
a∈Fq∑φX,Y(a)ψ(ba)
という和を計算しました. この一座標の変換は,実は q×q 行列として表せます. そして,長さ n の符号に対する変換は,その行列の n 回テンソル積として表せます.
つまり,今回の証明を
という形で翻訳できます. 指標論を見えないところへ押し込めると,MacWilliams恒等式は 「あるHadamard型行列のテンソル積が重み多項式に作用する公式」として見えてきます.
同じFourier・指標・Poisson系の証明であっても, 指標を前面に出すか,行列を前面に出すかで,見え方は大きく変わります. 次回は,その違いを見ながら,テンソル積線形代数に入門します.
参考文献
- [Ter99] Audrey Terras. Fourier analysis on finite groups and applications. Cambridge University Press, Cambridge, vol. 43, pp. x+442, 1999. doi:10.1017/CBO9780511626265 引用箇所有限群の指標と有限Fourier解析については, Terras [Ter99] や Stein–Shakarchi [SS03] が標準的な参考文献です. 有限体のトレース写像や加法指標については,Lidl–Niederreiter [LN97] を参照してください.↩
- [SS03] Elias M. Stein and Rami Shakarchi. Fourier analysis. Princeton University Press, Princeton, NJ, vol. 1, pp. xvi+311, 2003 引用箇所有限群の指標と有限Fourier解析については, Terras [Ter99] や Stein–Shakarchi [SS03] が標準的な参考文献です. 有限体のトレース写像や加法指標については,Lidl–Niederreiter [LN97] を参照してください.↩
- [LN97] Rudolf Lidl and Harald Niederreiter. Finite fields. Cambridge University Press, Cambridge, vol. 20, pp. xiv+755, 1997 引用箇所有限群の指標と有限Fourier解析については, Terras [Ter99] や Stein–Shakarchi [SS03] が標準的な参考文献です. 有限体のトレース写像や加法指標については,Lidl–Niederreiter [LN97] を参照してください.↩
- [Woo99] Jay A. Wood. Duality for modules over finite rings and applications to coding theory. Amer. J. Math., vol. 121, no. 3, pp. 555–575, 1999. http://muse.jhu.edu/journals/american_journal_of_mathematics/v121/121.3wood.pdf 引用箇所Wood [Woo99] によって証明された Frobenius環上のMacWilliams恒等式では, 生成指標を用いた環と指標群の同一視が中心的役割を果たします. さらに進んだ一般化として,Wood [Woo99]より少し具体的に 「有限Frobenius環上のMacWilliams型恒等式」を扱う文献として [HL01] が挙げられます. ここでは,有限Frobenius環上の線形符号について, 複数の重み分布に対するMacWilliams型恒等式が統一的に扱われています.↩1 引用箇所Wood [Woo99] によって証明された Frobenius環上のMacWilliams恒等式では, 生成指標を用いた環と指標群の同一視が中心的役割を果たします. さらに進んだ一般化として,Wood [Woo99]より少し具体的に 「有限Frobenius環上のMacWilliams型恒等式」を扱う文献として [HL01] が挙げられます. ここでは,有限Frobenius環上の線形符号について, 複数の重み分布に対するMacWilliams型恒等式が統一的に扱われています.↩2
- [HL01] Thomas Honold and Ivan Landjev. MacWilliams identities for linear codes over finite Frobenius rings. Finite fields and applications (Augsburg, 1999), pp. 276–292, 2001 引用箇所Wood [Woo99] によって証明された Frobenius環上のMacWilliams恒等式では, 生成指標を用いた環と指標群の同一視が中心的役割を果たします. さらに進んだ一般化として,Wood [Woo99]より少し具体的に 「有限Frobenius環上のMacWilliams型恒等式」を扱う文献として [HL01] が挙げられます. ここでは,有限Frobenius環上の線形符号について, 複数の重み分布に対するMacWilliams型恒等式が統一的に扱われています.↩